研究概要 |
狂犬病ウイルスの複製における細胞骨格系,特に膜骨格系(actin-CD44系)成分の役割について,いろいろな角度から解析を行った.細胞骨格成分のうち,アクチン繊維を細胞膜成分(CD44,CD43,ICAM Iなど)とを結びつける役割を持つモエジンは,ウイルスの糖蛋白(G)と直接結合する性質を持ち,またGタンパクの膜貫通ドメインのすぐ内側にはモエジンの本来の結合相手となるCD44,CD43およびICAM Iの膜貫通ドメインの細胞質側の配列と類似性を示し,GタンパクはCD44等と共通の結合様式によりモエジンと結合することが示唆された.このことは競合的に作用する可能性をも示唆し,ウイルス感染過程が進むにつれて,microvili構造が消失してゆく仕組みとしても説明することができるかもしれない.さらに,成熟ウイルス粒子における各成分の局在部位を免疫電子顕微鏡的に観察して得られた所見から,ウイルス粒子形成過程における膜骨格系の役割を以下のように推測した.まず,出芽法によるウイルス粒子形成過程は3つの段階に分けられる;(1)まず出芽の始まりにおいて,ウイルスエンベロープ成分を含む小さいドームが膜上に形成され,(2)次に,ドーム形成の延長として伸長過程が進み,ヌクレオカプシドの端が収まるまで続き,(3)最後に粒子が細胞膜から切り離される過程である.ウイルスの出芽過程において,細胞骨格系がポジティブに果たす役割があるとして推測されることは,出芽の始まりにおける小さいドーム形成において,表面張力に打ち勝って膜を盛り上げる過程,引き続く粒子伸長過程(膜骨格系は粒子の伸長とともに移動すると思われる),出芽の最後の段階として粒子が細胞膜から切り離される終結段階,これら3つの段階において,細胞骨格系の力が大きく働く可能性がある.
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