研究概要 |
近年消化管における粘膜免疫システムが注目されその解明が進んでいるが、食物アレルギー誘導・制御における腸管粘膜免疫の詳しい役割については未だに不明な点が多い。そこで、我々はアレルギー性下痢誘導マウスモデル(J Clin Invest,106:199,2000)を作成し、食物アレルギーの予防ならびに治療法の確立を目ざして、その発病メカニズムにおける粘膜免疫システムの関わりについて検討を行なってきた。BALB/C、SJL/J、C57BL/6、C3H/HeJなどの系統の異なるマウスを卵白アルブミン(OVA)とCFAアジュバントで全身感作した後、OVAを連続的に経口投与するとBALB/C、SJL/Jではアレルギー性下痢症状が誘導された。そこで、アレルギー性下痢が誘導されているBALB/C、SJL/Jマウスの病態をさらに詳しく比較・検討したところBALB/cマウスの血清では顕著なIgE抗体の上昇が認められたが、SJL/JマウスではIgE抗体の上昇はまったく認められなかったことから両者において全く異なるアレルギー誘導機構が関与していることが示唆された。次に、アレルギー症状が惹起されている腸管粘膜組織における免疫病理学的解析・検討を試みた。BALB/Cマウス下痢発症群では大腸に限局して好酸球、マスト細胞、IgE産生細胞の上昇が見られたが、SJL/Jマウスでは小腸に限局した好酸球の浸潤が見られ、マスト細胞、IgE産生細胞の数の増加は認められなかった。さらに、アレルギー性下痢が誘導されたBALB/cマウスの脾臓や大腸における抗原特異的CD4^+Th細胞群を解析してみると顕著なTh2型、特にIL-4とIL-13の産生が認められた。一方、SJL/Jマウスの場合小腸及び大腸からは好酸球の遊走に関与するIL-5,eotaxinの分泌が認められ、IgEのclass switchingの関係するIL-4、IL-13の分泌は全く見られなかった。さらに、抗IL-5抗体や抗eotaxin抗体を用いた中和実験を行なったところ、それぞれ単独投与では阻止効果がなかったものの両方の中和抗体を併用することによりSJL/Jマウスにおけるアレルギー性下痢誘導を抑制することが出来た。これらの結果は腸管粘膜組織で引き起こされるアレルギー誘導機構として、IgE抗体依存型と非依存型(IgE非依存性好酸球型)が存在することを強く示唆している。
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