研究概要 |
MEC/CCL28は2000年に報告された最も新しいケモカインである.唾液腺のみならず,乳腺,前立腺,膵臓などの外分泌組織で発現し,特に乳腺に関しては,乳癌細胞でCCL28の産生が消失していることから,癌原性との関わりも示唆されている.外分泌腺におけるCCL28の機能解析は,生体防御におけるケモカインの新たな役割の解明へと繋がる.さらに,CCL28は気管支,大腸,直腸などの粘膜上皮でも発現を認めており,外分泌腺組織を含めた大きな意味での粘膜免疫にCCL28が深く関わっていることを示唆している.その受容体であるCCR10を発現する細胞としては,これまで皮膚指向性メモリー/エフェクターT細胞が報告されているのみで,外分泌腺や粘膜組織での発現細胞はほとんどわかっていなかった.研究代表者らは,CCL28が唾液腺腺房上皮細胞で構成的に産生され,唾液中に多量に分泌されることを証明した.またCCL28のカルボキシル末端が抗菌ペプチドのヒトヒスタチン-5に高い相同性を示すことを見いだし,その抗菌作用を検討した結果,CCL28がグラム陽性菌,グラム陰性菌,真菌にまたがる広範な抗菌活性を示すことを明らかにした.一方,CCR10はIgA形質細胞で機能的な発現がみられ,CCR10陽性形質細胞は腸管全般と唾液腺で確認されたことから,CCL28陽性の粘膜上皮全般へのIgA形質細胞のホーミングに関わっている可能性が示唆された.これまで粘膜局所におけるIgA形質細胞の移動はCCL25が小腸特異的な遊走能を示すのみであった.CCL28はこれを全身の粘膜系に広げた点さ極めて重要な知見と考えられた.以上の結果より,CCL28は粘膜局所で抗菌タンパクとして作用する一方で,IgA形質細胞の粘膜局所へのホーミングに関わる,自然免疫と獲得免疫にまたがって作用するケモカインであることが示された.
|