研究概要 |
近年、国内外で社会的問題になっているダイオキシン類のリスクアセスメントシステムを構築するために、ヒト体内のダイオキシン類の動態および奏効部位におけるダイオキシン類の濃度を推定する薬物動態モデルの作製を試みた。ダイオキシン類としては、毒性が極めて強いこと、環境中の主な汚染物質であることなどの理由から、近年そのリスクアセスメントが大きな問題となっている2,3,7,8-テトラクロロジベンゾダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)を選んだ。薬物動態モデルとしては、血液、血行が豊富な臓器(脳、副腎、骨髄など)、血行が乏しい臓器(骨、脂肪組織など)、肝臓、腎臓、消化管など計6個のコンパートメントを想定した。2,3,7,8-TCDDに代表されるダイオキシン類は、脂溶性が高く、血液中では脂質と結合して存在すること、また標的臓器が肝臓であることから、2,3,7,8-TCDDの血中脂質中量と肝中量を中心に解析を試みた。ヒトでは、2,3,7,8-TCDD曝露後の血中脂質中2,3,7,8-TCDD量と肝中2,3,7,8-TCDD量の比は、10-12:1であった。それに対して、ラットでは血中脂質中2,3,7,8-TCDD量と肝中2,3,7,8-TCDD量の比は、1:3-4であり、ヒトとかなり異なることが示された。今回得られたデータは、現在までに報告されている疫学データや動物実験データとよく一致しており、この薬物動態モデルの有用性が裏付けられた。
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