研究概要 |
[目的]従来の疫学研究では,脳梗塞と血清脂質との関連は虚血性心疾患ほど明らかではない。一方,近年わが国では,食生活を含む生活様式の欧米化に伴い高脂血症者の増加が指摘されている。本研究では,福岡県久山町における追跡調査の成績を用いて,病型別脳梗塞と血清脂質との関連を検討した。 [方法]1983年の久山町の成人健診を受診した40歳以上の住民2,551名(受診率80.6%)のうち,健診期間中に死亡した3名と脳卒中既発症者75名を除いた2,473名を対象集団とした。この集団を1983年11月から13年間追跡し,脳梗塞発症者を同定した。交絡因子として収縮期血圧,耐糖能異常,BMI,喫煙習慣,飲酒習慣,身体活動度を取り上げた。 [結果]追跡期間中の病型別脳梗塞発症者は,ラクナ梗塞が69名,アテローム血栓性脳梗塞が36名,心原性脳塞栓症が35名であった。ラクナ梗塞には女性において総コレステロール(TC)のみが有意な危険因子となった。一方,アテローム血栓性脳梗塞に対して,男性ではLDLコレステロール(LDLC)が,女性ではTCとLDLCが有意な危険因子となった。また,心原性脳塞栓症には,女性においてLDLC低値のみが有意な危険因子となった。上記の交絡因子を考慮に入れた多変量解析では,全脳梗塞とラクナ梗塞に対して有意な危険因子となった血清脂質はなかった。一方,アテローム血栓性脳梗塞には,男女ともLDLCが有意な危険因子となった。また,心原性脳塞栓症に対して,女性でLDLCが負の危険因子となった。 [結語]LDLコレステロールは,男女でアテローム血栓性脳梗塞の有意な危険因子となったが,血清脂質とラクナ梗塞との間には明らかな関連はなかった。近年,日本人の血清脂質レベルは急速に上昇しており,今後アテローム血栓性脳梗塞の増加とともに脳梗塞の欧米化が進行する可能性が高い。したがって,今後脳卒中(脳梗塞)を予防する上で,高血圧管理をさらに徹底するとともに,運動や食生活の改善によって高脂血症を是正することが重要になったと考えられる。
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