研究概要 |
M町における252組の母児を対象に、胎児の微量メチル水銀胎内曝露の成長・発達への影響を母の頭髪水銀レベルと児の歩行開始の時期との関係から調査した。頭髪の提供者は230名であり、母の頭髪総水銀濃度の幾何平均濃度は1.60ppm(中央値1.63ppm,最小値0.37〜最大値7.04ppm, n=230)であった。母の頭髪水銀濃度は魚食一回当りの魚食量の増加とともに高いが、週当りの魚食頻度には依存していなかった。児の歩行開始(月数)は、母の出産時の年齢、児の性(女児=0,男児=1)、在胎期間(週)、出生体重(kg)、出生後4ヶ月までの母乳の授乳期間(月)、出産経験(第一子=0,第二子=1)を調整したところ在胎期間が長ければ児の歩行開始が早い傾向にあったが、母の頭髪総水銀濃度との関連はなかった。次に、児の歩行開始の時期を満1歳の誕生日で分類し、満1歳の誕生日前に歩き始めた場合を0とし、満1歳の誕生日かそれ以降に歩き始めた場合を1として母の頭髪水銀レベルとの関係について多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、経産児(第二子)が姉の後に生まれた場合、出産時の母の年齢、児の性、在胎期間、出生体重、魚食の頻度と量、母乳保育の期間を調整すると、母の頭髪総水銀レベルが高くなると児の歩行開始が誕生日を含めてそれ以降になる傾向が見られた。また、経産児が兄の後に生まれた場合、児の性、在胎期間、出生体重、魚食の頻度を調整すると、母の頭髪総水銀レベルと児の歩行開始時期との関係は有意ではなかったが、魚食一回当りの魚食量が多く母乳保育の期間が短ければ児の歩行開始が誕生日を含めてそれ以降になる傾向にあり、出産児の母の年齢が高いと児の歩行開始が誕生日を含めてそれ以降になっていた。本調査・研究で対象としたM町の母の頭髪総水銀が、児のメチル水銀の最小胎内曝露量を推定するには低いレベルであった。そこで、筆者らが先の調査研究(Li et al.,2001)で得られたデータ(母の頭髪水銀が5〜10ppmの例)を加えることで、児における歩き始めの時期と母の頭髪水銀レベルとの関係を統計学的に検討したところ、母の頭髪総水銀濃度として5ppmを超えることが微量メチル水銀の胎内曝露による児の成長・発達に影響する可能性を示した。
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