研究概要 |
昨年度に引き続き,法医剖検例で得られた胸腺について,通常の病理組織学的検査及び免疫組織学的検査に加え,非固定の胸腺から細胞を単離し,一次抗体としてanti-CD3,-CD4,-CD8,-bcl-2抗体を用い,標識後,フローサイトメトリーによって胸腺内細胞分化の程度を調べると共に,NK細胞活性について調べた. 病理組織学的に諸臓器のうっ血の他,死因となる病変を認めないような乳幼児及び成人の突然死症例において,胸腺肥大あるいは胸腺実質の顕著な残存があり,フローサイトメトリーによる解析によってCD4/CD8ダブルポジティブの比率の増加が見られた.また,bcl-2の発現がCD3発現に関係なく一定のレベルを保ち,ダウンレギュレーションが見られなかった.これらの所見は,児童虐待例と対照的な結果であった.胸腺の腫大する例では,副腎皮質の発育が悪く,既に死語となったかと思われる「胸腺リンパ体質」という語を想起させる結果が得られた. 次に,この胸腺細胞の分化の程度と末梢リンパ球のCD4,CD8の分化の程度を比較したが,胸腺内と末梢との間に相関は見られながった.又,胸腺内及び末梢血より採取したNK細胞活性には,死因による顕著な差を見出し得なかった. 三重県内における乳幼児の突然死の実態について調査を行うと,三重県警察本部が取り扱った0歳児の検視数は,1998年で10体あり,うち5体がSIDS又はその疑いという検案書が発行された.他の5体は,司法解剖され外因死であると判断された2例,奇形が原因と診断された1例,SIDSと最終的に診断した1例の計4例が法医解剖の対象になった.しかし,残りの4例のSIDSは剖検すら行われずに,SIDSとの死亡診断書が発行されていた.しかしながら,2003年度には変死体として扱われた0歳児の剖検率が上がり,SIDSと記載された死体検案書が皆無となった.死因究明のための制度の充実と共に,原因不明の死体に対し,精度の高い解析が必要であるこという結果が得られた.
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