研究概要 |
我々はこれまでに、樹立細胞システム(RCF-26)を用いて、HCV-IRES活性は細胞密度が低い状態でより活性化され、細胞密度が高い状態では抑制されること、細胞周期との関連において、HCV-IRES活性は細胞の分裂期(M期)で高く、休止期(G0)で低いことを明らかにした(Honda et al.,118:152-162,2000,Gastroenterology)。HCV-IRES活性に如何なる宿主因子が関与しているか明らかにするため、まず、真核生物の各種翻訳開始因子とHCV-IRES活性を制御すると考えられる宿主因子(eIF2,eIF3,eIF4A, eIF4E, eIF4G, PTB, Laなど)を可能な限り選出し、それらの遺伝子を含んだ新しいcDNAチップを作成し、各細胞周期における遺伝子発現とHCV-IRES活性を検討した。興味深いことに、それら翻訳関連因子の発現はそれぞれS期、G2/M期、G1期に発現する遺伝子群に群別され、HCV-IRESとの関連が報告されているPCBP2,PTB, eIF3,eIF2gamma, eIF2 beta, La protein, RNLPLはS期及びG2M期に発現誘導されていた。一方、キャップ依存性蛋白翻訳に於いてのみ必要とされるeIF4A、eIF4BはG1期で発現上昇しており、HCV-IRES活性とreciprocalな変動を示した。各翻訳関連因子の発現量がHCV-IRES活性にどの程度影響を与えるかについて、それぞれの翻訳因子に対するantisense oligoを作成し、各因子の発現を抑制して、HCV-IRES活性を検討したところ、La蛋白、PTBの発現抑制によりHCV-IRES活性の有意な低下が認められた。さらに、各宿主因子の発現ベクターを構築しRCF-26で過剰発現させHCV-IRES活性を検討すると、La蛋白、PTB、eIF3の過剰発現によりHCV-IRES活性の上昇が認められた。In vitro translationの系を用いてLa蛋白、PTB、eIF3とHCV-IRESをco-translationしLa蛋白、PTB、eIF3蛋白のHCV-IRES活性に与える影響について検討すると、La蛋白、PTB、eIF3は容量依存性にHCV-IRES活性を上昇させたが、Encephalomyocarditis virus (EMCV)-IRESには殆ど影響を与えなかった。従ってHCV-IRES活性はより宿主因子に依存していることが明らかとなった。実際の肝組織でLa蛋白、PTB、eIF3の発現をReal time RT-PCRを用いて検討すると、C型慢性肝炎肝組織においてLa蛋白が正常例より有意に発現亢進していた。さらにLa蛋白の発現が高いほど肝組織でのHCV-RNA量が多かった。実際の肝組織に於いてもLa蛋白がHCVの複製に重要な働きをしていることが明らかとなった。
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