研究概要 |
関節リウマチ(RA)の骨破壊に破骨細胞が深く関与していることが明らかになっている。本研究では,すでに確立したRA滑膜組織を用いたin vitro骨破壊モデルを用いて,滑膜マクロファージが増殖し破骨細胞に分化する過程に関わる分子を同定し治療法を開発することを目的に検討を行った。RA滑膜組織培養ではOA滑膜組織に比べて有意に破骨細胞の形成が多く骨吸収活性も高かったことから,RA滑膜組織では,滑膜マクロファージを増殖させ破骨細胞へ分化誘導する因子が過剰に産生されている可能性が示唆された。そこで,滑膜組織培養上清中に産生されるサイトカインや成長因子を検討した。RA滑膜組織ではIL1,TNFα,IL-6といった炎症性サイトカインの産生が多く,またマクロファージの分化因子であるMCSFや血管新生誘導因子であるVEGFの産生も有意に多かった。 破骨細胞誘導に関与するサイトカインや成長因子の特異的インヒビターのin vitro骨吸収系に対する効果を検討した。Osteoprotegerin(OPG)は破骨細胞および骨吸収窩の形成を抑制したことから,RANKL/RANKを介するシグナルがin vitro骨破壊モデルでは作用していることが示唆された。RANKL/RANK系シグナルを抑制するOPG,モノクローナル抗体は蛋白製剤であり,臨床応用には副作用,コストの点で問題もあることから,RANKのRANKL結合部位のアミノ酸配列探索によりRANKに結合しRANKLの作用を阻害するペプチドを作製した。同ペプチドはOPGに比べて生理活性は弱いものの,マウス骨髄培養系において破骨細胞形成を抑制した。RA滑膜組織培養系にでも同様の破骨細胞形成抑制作用を示した。 マクロファージファージの分化調節因子で破骨細胞の分化に必須であるMCSFを阻害するMCSFR-Fc融合蛋白は骨吸収を減少させなかったが、VEGFR-Fc融合蛋白は用量依存的に破骨細胞および骨吸収窩の形成を減少させた。RA滑膜炎組織の病理学的な特徴の一つは新生血管の増生であり,また血管新生と骨破壊の程度が相関するとの報告もみられることからVEGF抑制が骨破壊を抑制したことは興味深い成績である。 一方,TNFはRANKL非依存性に破骨細胞の分化,活性化,生存を刺激するがTNFR II-Fc融合蛋白も骨吸収を抑制した。TNFR II-Fc融合蛋白は臨床的に骨破壊進行を抑制することがしめされており,in vitro骨破壊モデルでの成績と一致する所見である。 以上の成績は,滑膜組織からの破骨細胞形成にはRANKL-dependent pathwayとTNF等を介するRANKL-independent pathway,血管新生促進因子が複雑に関与している可能性を示唆する。さらに,本研究ではRANKL/RANK経路の抑制,VEGF阻害,TNF等の炎症性サイトカイン抑制がRAの骨破壊の予防治療戦略になることが明らかになり,RANK部分ペプチドも治療薬となる可能性が示唆された。今後,関節炎モデルなどを用いてin vivoでの効果を検討する予定である。
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