研究概要 |
PR-39は哺乳類の内因性抗菌物質で自然免疫担当分子であり,接着分子であるsyndecanの発現を誘導し,皮膚の創傷治癒を促進する作用もある.我々は,syndecanの発現が高転移性の肝癌において低下し(Matsumoto, Int J Cancer, 1997),syndecan-1遺伝子導入によって浸潤能が低下することを明らかにした.さらにsyndecan誘導因子PR-39遺伝子を導入する事により,肝癌細胞の浸潤能が低下することに加え,細胞形態とactin構造が変化することを明らかにした(Ohtake, Br J Cancer, 1999). PR-39はproline-richモチーフPXXPPXXPを持ち,これがSrc homorogy 3 (SH3) domainに結合する能力を持つ.実際にPR-39はp47^<phox>やp130^<cas>などのシグナル分子のSH3 domainに結合する.PR-39遺伝子導入による細胞内情報伝達経路の変化を解明するために,活性型ras遺伝子導入による形質転換線維芽細胞を用いて検討した.PR-39遺伝子導入によってactin構築が変化し,細胞増殖が抑制され,MAP kinase活性が低下した.これはPR-39がPI3 kinase p85αに結合し,PI3 kinase活性が低下することによって起きたと考えられた(Tanaka, Jpn J Cancer Res, 2001). さらに癌悪液質を起こす大腸癌細胞株colo26に対するPR-39の癌抑制効果をマウス皮下移植モデルで検討した.PR-39ペプチドの腹腔内投与マウスおよびPR-39トランスジェニックマウスへのcolo26の皮下移植,またはcolo26にPR-39遺伝子を導入したトランスフェクタントの皮下移植のいずれにおいて腫瘍の増殖抑制効果は認めなかった.しかし,PR-39トランスフェクタントの担癌マウスのみがコントロール群に比較して生存期間が延長した.以上よりPR-39遺伝子を癌細胞内に導入することによって癌悪液質を改善し,生存期間を延長させると考えられた.
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