研究概要 |
多価不飽和脂肪酸(PUFA)摂取による大腸浸潤癌モデルを作成し,大腸癌の発生機構について,アポトーシスと野生型p53の働きを中心に検討した.【方法】5週令雄性SDラットにアゾキシメタン(AOM,15mg/kg)を腹腔内投与し,10%コーン油(58%PFUA)を含む餌を与えた.これをAOM+PUFA群とし,対照群,PUFA単独摂取群AOM単独投与群の4群で,大腸に発生したaberrant cryptfoci(ACF)および腫瘍について組織および腸粘膜のアポトーシス経路について検討した.【結果】12週における大腸のACF発生数は,AOM群は対照群の約10倍,AOM+PUFA群では約20倍であった.24週以降では,AOM群とAOM+PUFA群の大腸には直径5mm以上の腫瘍の発生を認め,後者は前者の約2倍の発生数であったが,対照群とPUFA群では腫瘍は認めなかった.これらの腫瘍は全て管状腺腫ないし高分化腺癌でありAOM+PUFA群では高頻度に癌の粘膜下浸潤を認めた. AOM群及びAOM+PUFA群では12,36週いずれも大腸粘膜のアポトーシスが抑制された.AOM+PUFA群12週では,p53の総量は減少していた.AOM群及びAOM+PUFA群36過の大腸粘膜におけるp53は,総量の減少は認めないが,増加したMDM2とともに細胞質内に存在した.さらにAOM+PUFA群では,細胞質及びミトコンドリアのHSP90が低下し,ミトコンドリアのBCL-2とBcl-xLは増加していた.対照群36週では,HSP90,p53とともにミトコンドリアに多く存在した.以上より,PUFA長期過剩摂取によりHSP90の合成が抑制され,p53の細胞質からミトコンドリアへ移行が阻害されることでアポトーシスが抑制されると推察された.
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