研究概要 |
【目的】炎症性腸疾患(以下IBD)の発症機序の一つとして,大腸粘膜内に浸潤した好中球やマクロファージから産生される活性酵素が,粘膜の組織傷害を引き起こすことが知られている.活性酸素の一種のsuperoxide(O2-)を消去する酵素であるsuperoxide dicmutase(SOD)を用いたIBDの治療が期待されたが,SODは血中での半減期が短く,さらに組織結合性が低いため,有効性が報告された例は少ない.今回我々は,SODのisozymeで,細胞外分泌型で血中半減期の長いextracellular SOD(EC-SOD)に着目し,さらに目的タンパク質を持続的に発現させることが可能な遺伝子治療により,IBDの動物モデルの一つであるマウス硫酸デキストラン(以下DSS)大腸炎に対する治療効果を検討した.【方法】1.Balb/c胎児マウスより作成したBalb/c線維芽細胞にEC-SOD遺伝子をretrovirusを用いて導入し,EC-SOD分泌線維芽細胞を作成してDSSマウスに接種する,ex vivo遺伝子治療を試みた.Balb/cマウスに,DSS(5% w/v)を経口投与し,第0,4日に2x10^7個のEC-SOD分泌線維芽細胞を背部皮下に接種し,DSS大腸炎に対するEC-SOD遺伝子導入の効果について検討した.2.EC-SOD遺伝子を導入したセンダイウイルスベクター(SeVECSOD)を開発し,これを用いたDSS腸炎の治療効果について検討を加えた.具体的にはBalb/cマウスに,DSS(5% w/v)を経口投与し,第0日に1x10^6CIUのSeVECSODを接種し,DSS大腸炎に対するEC-SOD遺伝子導入の効果について検討した.【成績】無治療群では全例に第6日目より血便が確認され,第10日目では100%が死亡したのに対し,EC-SOD線維芽細胞接種群(EC-SOD治療群)では第6日に50%のマウスに少量の血便が認められたのみで,第10日目では死亡例も認めなかった.また投与後無治療群では徐々に体重減少を認めたが,EC-SOD治療群では抑制された.大腸の全長を比較したところ,無治療群では正常マウスに比べ短縮していたが,EC-SOD治療群では有意に抑制されていた.また大腸内の肉眼的出血の程度を既報に従い評価したところ,無治療群では多量の血液の付着が見られたのに対し,EC-SOD治療群では著明に抑制されていた.組織学的所見においても,正常マウスの大腸粘膜に比べ,無治療マウスは粘膜内に著しい炎症性細胞の浸潤や陰窩膿瘍が認められたが,EC-SOD治療群ではこれら炎症所見は軽微であった.また,SeVECSODを用いての治療効果も,生存率において有意差をもって認められた.【結論】EC-SOD遺伝子を用いた遺伝子治療は,DSS大胆炎に対して有効な治療法であった.
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