研究概要 |
胃癌とりわけ分化型胃癌は,H.pylori(HP)感染による慢性活動性胃炎の持続により萎縮性胃炎,腸上皮化生、または胃腺腫を経て癌化すると推測されているが,胃癌も大腸癌と同様に,その発生過程においてCOX-2が関与している可能性が高い。そこでi)HP陽性の胃腺腫患者,およびii)HP感染胃上皮細胞(MKN28)を用いて、HP感染がCOXを介して胃粘膜上皮の増殖・発癌に与える影響、さらに除菌療法またはNSAIDsによる胃癌のchemopreventionとしての可能性を探ることを目的とした。 HP陽性胃腺腫患者に対し除菌療法を行い,12/13症例が除菌成功。除菌成功例を除菌後平均13.1ヶ月観察。高度および軽度縮小例(12例中5例:41.7%)では隆起の幅より丈が低くなるため、周囲との境界がやや不明瞭となるが腫瘍成分は消失せず、異型性も変化しなかった。 COX-2の免疫染色では,除菌前、粘膜表層近傍の間質系細胞を中心に腸性細胞がみられたが、除菌後ほぼ消失した。MMP-7では、除菌前、腺腫上皮を中心に陽性細胞がみられたが、除菌後減少した。細胞増殖をみるKi67 Labeling indexは、除菌前に比べ除菌後減少していた。MKN28は、HP感染によってCOX-2蛋白が誘導された(Western blot)。MKN 28は、HP感染させると、培養上清中のIL-8およびVEGFが経時的に増加した。さらに、その増加は、選択的COX-1阻害剤(SC560)、選択的COX-2阻害剤(celecoxib)または非選択的COX阻害剤(indomethacin)によってそれぞれ抑制された。 HP除菌療法は、血管新生や腫瘍増殖作用を有するVEGF, IL-8産生、増殖や発癌と関連の深いCOX-2およびMMP7発現を抑制する。一方、NSAIDsは、COX-2のみならず、COX-1阻害もまた、HP感染にともない刺激されたVEGF, IL-8産生を抑制する。除菌療法およびNSAIDsは、胃上皮性腫瘍の癌化や増殖を抑え、胃癌に対するchemopreventiveな作用が期待される。
|