研究概要 |
脛骨神経刺激により導出される単シナプス反射であるH反射にたいする経頭蓋磁気刺激(TMS)の条件刺激効果を随意運動の開始時に記録した.結果,正常者では閾値以下のTMSは安静時にはヒラメ筋H反射に対して抑制とそれに先行する小さな促通効果を持ち,ヒラメ筋の随意収縮開始に際しては抑制は消失し,大きな促通効果がみられた.この効果はパーキンソン病では殆ど観察されず,逆に抑制の増加が観察された.この抑制は質的には足背屈時の中枢性相反性抑制と同様であった.また,この抑制は淡蒼球内節破壊により消失し,促通が出現した.ヒラメ筋収と拮抗筋の活動の抑制で円滑な足関節底屈が可能であるが,パーキンソン病では選択的な興奮が生じず拮抗筋にも興奮が生じるため,このような抑制が生じると考えられる.これはパーキンソン病におけるすくみの発生機序と考える. H反射と腱叩打によるT波の比較を行った.本研究では安静時の両者の比較のみではなく,随意運動中のH反射とT波を比較した.結果,安静時のT波はパーキンソン病では正常者よりも大きい傾向があるものの,随意収縮中にはH反射は正常者と同様に増大するもののT波は減弱した.この二者の比較はγ系の活動性を評価する方法とされていたが,過去の研究によりそれ以外の神経機構の関与が大きく意味はないとされていた.しかし,本研究で得られた結果は量的な差ではなく,質的な差であり,H反射,T波の差を生じる要因とされたIbの関与,Ia発火の質的な差では説明出来ず,fusimotor systemの異常がパーキンソン病の随意運動維持の障害の原因となっていることを強く示唆する現象であると考えられる.
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