研究概要 |
メラニン合成酵素のチロシナーゼ産生細胞としてのメラノサイトのパーキンソン病(PD)への治療応用の可能性と細胞移植治療の基礎資料を得るために,皮膚メラノサイト,メラノーマ細胞株のPDモデル動物の大脳基底核への細胞移植を行った. 1.パーキンソン病モデル動物の大脳基底核へのメラノーマ細胞の移植 片側PDモデルラットにチロシナーゼ産生細胞としてメラノーマB16F1細胞を細胞移植し,移植後40日間に及ぶアポモルフィン誘発回旋運動の著明な改善,52日後での移植メラノーマ細胞の生着ならびに移植細胞からのドパミン(DA)生成を認めた. 2.マウス新生児からの皮膚メラノサイトの初代・継代培養 C57BLマウスの新生児の背部皮膚片からの初代培養メラノサイトの至適培養条件を見いだし,albinoマウスからのものに比べて高いチロシナーゼ活性を有していることを確認した. 3.パーキンソン病モデル動物の大脳基底核への初代培養メラノサイトの細胞移植 片側PDモデルマウスの障害側線条体背外側に,新生児C57BLマウスの背部皮膚からの初代培養メラノサイトを移植し,移植後3ヶ月間に及ぶ持続的なアポモルフィン誘発回旋運動の著明な改善を認めた.移植3ヶ月後においても移植側線条体にメラニン顆粒を含む移植メラノサイトの生着を認め,移植側線条体の背外側脳梁に接してDAおよびチロシナーゼ陽性シグナルの増加が認められた. 4.パーキンソン病モデル動物の皮膚メラノサイトの培養 皮膚メラノサイトの自家移植にむけた基礎検討として,成体C57BLマウスの背部皮膚片からの初代培養を試みたが,毛嚢部の混入等のため困難であった.耳介からの初代培養を検討している. 5.パーキンソン病モデル動物でのチロシナーゼ陽性細胞の脳内分布 チロシナーゼ陽性シグナルは主に脳梁,線条体,黒質のオリゴデンドロサイトに認められ,PDモデル障害側の線条体,黒質では,それぞれ減少,増加していた. これらの結果から,メラノサイトを含むこれらチロシナーゼ産生細胞の細胞移植による持続的なDA神経機能補完作用は,PD治療に応用できうるものであると考えられる.
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