研究概要 |
1型インスリン様成長因子(IGF)受容体(IGF-IR)ノックアウトマウスは,胎内発育遅延(IUGR)および出生直後より成長障害を来す.私達は,原因不明の低身長児,特に胎内発育遅延(IUGR)に伴う低身長児,を対象にIGF-IRの遺伝子解析を行い,IGF-IRの異常に起因する成長障害を検討した. 症例は,在胎40週出生体重2686g(-1.51SD),身長48cmのIUGRで出生した6歳女児.IGF-IRのproreceptor(proIGF-IR)がαとβ subunitに切断されるcleavage部位に,Arg-Lys-Arg-ArgがArg-Lys-Glu-Argに変化するArg709Glnをヘテロで認めた。制限酵素を用いた検討により,患児に加えてIUGR性低身長を示す母親(在胎週数41週2500gのIUGR、最終身長145cm)にも同じ変異をヘテロで認めた。しかし,正常身長でIUGRの既往が無い同胞および父親には本変異は認められなかった.同じ変異を有する母親の線維芽細胞を用いて、IGF-IRβ鎖に対する抗体を用いたウエスタンブロット法で,線維芽細胞のIGF-IRとproreceptorの発現量を検出したところ,母親の線維芽細胞では明らかに200Kdaの位置に存在するproIGF-IR蛋白がコントロールに比して約3倍増加し、一方正常のIGF-IR蛋白は、コントロールの60%に減少していた。 本検討により,proIGF-IRがαとβsubunitに切断されるcleavage部位のArg-Lys-Glu-Argに変化するヘテロの変異により,proIGF-IRからIGF-IRへのプロセッシング障害を来たすことが示された,この結果,正常IGF-IRの量的不足により,本変異が子宮内発育遅延性低身長を来したことが示唆された。
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