研究概要 |
カイコ突然変異体レモンの幼虫の脂肪体に存在する、セピアプテリン還元酵素(SPR)とは異なるBH4合成酵素の詳細な検討の結果、2種のカルボニル還元酵素(CR I,CR II)による、PPH4からのBH4合成という、新たな生合成系の存在を、前年までに明らかにした。SPR欠損症は、2001年にヒトで初めて報告されたが、この疾患は、今まで報告されたBH4欠損症とは大変異なることが大きな特徴である。すなわち、従来のBH4欠損症に見られる特徴である、尿中排泄各種プテリジン濃度および血中フェニルアラニンの高濃度が見られず、その値は健常者とほぼ同じである。このことはSPR欠損のヒト体内でも、BH4合成が行われていることを強く示唆する結果である。そこで我々は、ヒトの各種アルド・ケト還元酵素(AKR1 family members)を用いて、カイコのCRI,CRIIと同様の機能を持ち、PPH4からBH4合成を行うカルボニル還元酵素のヒトでの存在の有無を検討した。その結果、実験に用いたAKR1 family membersのうち、AKR1A1,1B1,1C1,1C2と1C4はPPH_4の6位の側鎖に存在する2つのカルボニル基のうち2'位を還元して1'-OX-PH_4を合成すること、中でも1B1は強い活性を持つことが明らかになった。また、AKR1C3は、前者とは異なり、1'位を還元して2'-OX-PH_4を合成する比較的強い活性を持っていた。更に、PPH4をAKR1B1であらかじめ還元した後、AKR1C3を加えると、BH4が合成された。この結果は、ヒトにもSPRを介さない新たなBH4合成系があることを示唆し、SPR欠損症に見られる尿中排泄各種プテリジン濃度および血中フェニルアラニンの濃度が、健常者と変わらない理由を明らかにした。
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