研究概要 |
【目的】近年,進行食道癌に対して化学放射線療法(CRT)を加えた集学的治療がなされるようになり,予後の改善が期待されている。CRTはそのすぐれた局所効果により切除不能と判断されていた症例が切除可能となり,長期生存が得られることも多い。しかし,一方では,術後短期間に再発し,死亡する症例も少なくない。このような症例は手術時にすでに微小転移が存在していた可能性が示唆される。そこでわれわれは,食道癌における微小転移の存在を分子生物学的手法で検索し,CRTが微小転移に及ぼす影響を検討した。 【対象と方法】2001年1月から2004年12月までの間に入院の上,CRTを施行した初発食道癌患者55症例を対象とした。CRTの前後,手術後に末梢血を採取し,RT-nested PCR法を用いてCEA mRNAの発現を検索,末梢血浮遊癌細胞の検出を行い,微小転移を検討した。 【結果】55例中,29例(52.7%)においてCEAmRNAの発現が検出された。臨床病理学的因子別の検討ではリンパ節転移度とStageと有意に相関した。CRT前後の変化をみるとCRT後,CEA mRNAの発現は23例(41.8%)に減少した。33例で手術を施行したが,6例(18.2%)でCEA mRNAの発現は変化した。再発との関係を見ると再発例にCEA mRNAの発現が多く認められた。予後との関係では,CEA mRNAの発現が認められた症例の予後が有意に不良であった。 【考察】食道癌患者におけるCEA mRNAの発現の検索による末梢血浮遊癌細胞の検出は癌の進行度と有意に相関し,CRTや手術など治療により変化することがわかった。さらに,治療後の末梢血浮遊癌細胞の存在は,再発や予後に関連を認めた。このことから末梢血浮遊癌細胞の検出は食道癌治療後の癌遺残の判定に有効と考えられ,CRT後の追加手術決定や治療後の追加治療決定の有用な判断材料になるものと思われた。
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