研究概要 |
本研究では、脳内覚醒維持機構について,オレキシン-ヒスタミン(HA)調節系をモデルとして検証した.脳波、筋電図用電極および第三脳室内連続注入用カニューレを慢性的に装着した雄ラットを用いた。オレキシンA 5 nmolを脳室内投与し覚醒させた際の大脳皮質のヒスタミシは24.1%の有意な増加であった。イヌ・ナルコレプシーでは、皮質や視床においてHA含有量が減少しており、イヌ・ナルコレプシーの原因がOX_2R遺伝子の欠損であることや,正常ラットではHA神経の起始核であるTMでほとんどがOX_2Rを発現していることから,オレキシンの作用にHA調節機構の関与が示唆された.そこで,H1受容体アンタゴニスト(pyrilamine)とオレキシンの組み合わせ投与実験を試みた。オレキシン1nmolを明期投与すると顕著な覚醒作用を示すが,その30分前からpyrilamineを投与しておくと用量依存的にオレキシンの覚醒効果は減弱された。いっぽう,ヒスタミン合成酵素の特異的阻害薬で睡眠誘発効果があるα-fluoromethylhistidine(α-FMH)の腹空内投与で神経由来のヒスタミンを枯渇させておいて、オレキシシB(5nmol/50ul)を明期にかけてラット脳室内連続投与すると,オレキシンBの覚醒作用が約26%減少した。α-FMH存在下ではオレキシンによる覚醒時間の増加は53.2%にとどまり,α-FMHによりHA合成が特異的に阻害されたためHA調節系を介するオレキシンの覚醒作用が減弱されたものと解釈している.これらの新知見はオレキシンの覚醒作用発現HAが強く関与することを示唆している.本研究において,脳内覚醒維持機構の一つとしてオレキシン-ヒスタミン調節系が重要な機能を有していることを明らかにした.
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