研究概要 |
うつ病発症の危険因子として,胎生期の母胎の飢餓や,思春期前期までに親による有害な生育環に置かれることなどの環境要因が指摘されている.セロトニン・トランスポーターはシナプスでのセロトニンの利用度を調節する重要な機能タンパク質であるが,神経発達上重要な役割を演じていると予想されている.本実験の目的は,神経発達期のセロトニン・トランスポーターの阻害により,うつ病の発症脆弱性に関連したラットの生物学的諸特性への影響を検討することである. ラット新生仔期に選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIを投与し,新生仔期のセロトニン・トランスポーター機能の阻害が成熟期のセロトニン・トランスポーターにどのような影響を与えるかを検討した.同時にノルアドレナリン・トランスポーターの影響も検討した.生後2日から15日まで皮下にfluoxetine 10mg/kg, citalopram 10mg/kg, salineを毎日投与した.生後90日の時点でラットの脳を取り出し,昨年度の方法を用いて青斑核でのノルアドレナリン・トランスポーターmRNAの発現,および縫線核でのセロトニン・トランスポーターmRNAの発現をin situ hybridizationで検討した.その結果,いずれのトランスポータmRNAにもsalineと比べて有意な変化はみられなかった. 以上の結果から,少なくともmRNAのレベルでは,神経発達期のセロトニン・トランスポーターの阻害は成熟期でのセロトニンおよびノルアドレナリン・トランスポーターには影響を与えない可能性が示唆された.しかし,mRNAの発現は必ずしもタンパクレベルでの変化を反映するとはいえず,今後は各脳部位でのトランスポータータンパクの発現をオートラジオグラフィーなどで検討する必要があると考えられた.
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