研究概要 |
【方法・対象】統合失調症の統語機能について検討する目的で,かき混ぜ文を処理中の事象関連電位(ERP)を測定し,健常対照群と比較を行った。対象は,統合失調症患者群11名,健常対照群18名である。以下のようなかき混ぜ文(標準語順文,短距離移動文,長距離移動文)をそれぞれ80文作成し,1句毎に提示時間400ms,刺激間間隔900msで連続的に視覚提示した。各文提示後に,名詞句と動詞からなる短文を提示し,正否についてボタン押し反応を求めた。長距離移動文のフィラーに相当する直接目的格とギャップ前の間接目的格の間に出現する持続性陰性電位,および各名詞句および動詞句に対するERPについて検討した。 a)校庭で 女の子が 男の子に 水をかけた。(標準語順文) 男の子にかけた ○ b)校庭で 女の子が 水を 男の子に かけた。(短距離移動文) 男の子がかけた × c)校庭で 水を 女の子が 男の子に かけた。(長距離移動文) 女の子をかけた × 【結果】統合失調症患者群は健常対照群に比して,短距離移動文における主格,短距離・長距離移動文における直接目的格と動詞の組み合わせに関する正誤判断成績が低下していた。また,統合失調症患者群では健常対照群と比較して,長距離移動文-標準語順文の差波形における持続性陰性電位が顕著であり,ギャップ直前の句に対するP600が不明瞭であった。 【考察】統合失調症患者は,言語作業記憶機能の低下により,フィラーの記憶保持に要するコストが高いことが示された。また,フィラーのギャップへの挿入を含めた文構造の統合機能に障害があることが示唆された。
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