研究概要 |
Albert Einstein大学のグループが作成したtransgenic mouseは、統合失調症関連行動とVCFS様のanomalyを示した。彼らの導入したBACクローンの22q11領域200kbには、PNUTL,GP1Bβ,WDR14,TBX1の4遺伝子が位置していた。そこで、4遺伝子についてmutation screeningを行った。PNUTLで1箇所、GP1Bβに3箇所、WDR14に4箇所、TBX1に16箇所で多型を同定した。200例の統合失調症と199例の対照をもちいてこれら全ての多型について、case-control studyを行った。その結果、TBX1において-85C>G(P=0.0074,Odds ratio=1.57,95%CI:1.08-2.32),928G>A(P=0.019,Odds ratio=0.36,5%CI:0.04-0.77)の2つの多型がそれぞれ正と負の関連を示した。両多型の野生型と変異型のホモ接合体について、統合失調症の発症年齢を比較した。-85C/C,G/Gでそれぞれ30.07+2.27歳、25.26+1.67歳と有意に変異型で発症年齢が低かった(P=0.05)。928G/G,A/Aでは、25.43+0.91歳、28.17+6.35歳と変異型で発症年齢が高かった(P=0.24)。これらから、TBX1遺伝子の-85C>Gは、統合失調症に発病促進的に関連することが示唆された。TBX1は前頭葉で発現しているので、松沢病院入院患者25例にWCSTを行い、-85C>Gの野生型と変異型のホモ接合体で前頭葉機能を比較した。その結果、-85C/Cと-85G/GにおいてMilner法による誤反応数がそれぞれ3.28+0.89、9.25+2.88と有意に変異型で高い値を示した(P=0.04)。 以上から、TBX1は統合失調症の遺伝的リスクファクターで、risk allele -85Gは前頭葉機能の低下にも関連することが示唆された。4番染色体短腕と13番染色体長腕の均衡転座t(4p,13q)(16.1;21.31)と、9番染色体腕間逆位inv(9)(p11,q13)の症例を同定した。t(4p,13q)(16.1;21.31)は、39歳発症の妄想型統合失調症と発症年齢が非典型であり、また多発性嚢胞腎、珊瑚状腎結石を合併していたため染色体検査を行い転座を同定した。両親も染色体検査を実施したところ転座はなく、de novo translocationであることが明らかとなった。この家系では、父親の8同胞と父方祖父母、母親の6同胞と母方祖父母に精神疾患の既往はなく、症例の兄も健常者だった。また、4p16.1は60%に精神障害を合併するWolfram syndromeのWFS1遺伝子の座位であり、13q21.31は統合失調症と連鎖が報告されている。そこで、この家系で唯一の統合失調症である発端者において、de novo転座部位の遺伝子断裂が発症に関与した可能性が示唆された(Itokawa et al.Psychiatry Clin.Neurosci.)。現在、転座断端の遺伝子をクローニングするために、FISH法による転座部位の詳細な位置を検索中である。inv(9)(p11,q13)は、3人同胞全員と母親が統合失調症という多発家系において同定された。松沢病院へ入院中の同胞2名の染色体検査を実施し2名ともに腕間逆位を同定した。母親は、松沢病院に入院中身体合併症にて死亡している。現在、残る1同胞(都内の精神科入院中)を調査中であり、同胞全員が同染色体異常を共有していた場合、さらに母親の同胞の調査を計画している。
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