研究概要 |
最近5年間の都立松沢病院認知症病棟での調査では,アルツハイマー病(AD)患者(男:51名、女:137名)において,初期症状として幻覚・妄想を認めたのは女性で13.1%,男性では2%であった.また男性では行動の異常や抑うつ状態が初発症状であることが女性より多かった.一般にうつ・幻覚・妄想などの精神症状が先行し,AD様の認知症が後から加わる症例のかなりの割合が,剖検による病理診断の結果びまん性レヴィー小体病(DLB)であることが見出される.DLBの大部分の例では,ADに匹敵する老人斑アミロイド(Aβ)の沈着が大脳の広い範囲に出現し,海馬・辺縁系には神経原線維変化などのタウ蓄積が認められる.一方,病理学的にDLBの診断基準を満たさず,ADと診断される症例にも,かなりの割合で(数は少ないが)レヴィー小体が認められる.このようにアルツハイマー病変とレヴィー病変との重複はADタイプの認知症疾患における精神症状の発症と関わることが推測される.しかし,両者を連続する疾患群として捉える場合,大脳新皮質においてDLBでは同程度のAβ沈着を有するADよりもタウ蓄積が少ないという疑問が以前から指摘されてきた.そこで,129番目のセリンがリン酸化したαシヌクレインに対するポリクローナル抗体を作製し,免疫組織化学染色を用いて,神経突起への異常なαシヌクレイン蓄積を観察した結果,ADの半数近くに側頭葉新皮質におけるαシヌクレイン陽性神経突起を見出すとともに,DLBの大脳皮質では,ADのタウ蓄積に匹敵する大量の神経突起内αシヌクレイン蓄積を認めた.組織定量により神経突起への異常タウ蓄積と異常αシヌクレイン蓄積を合算すると,AD・DLBにかかわりなく,Aβ沈着に見合う神経突起異常が生じていることが示された.
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