研究概要 |
赤芽球系前駆細胞の増殖と分化を調節する最も重要なサイトカインであるEPOの作用機序について,特にアポトーシス制御を中心に,EPO依存性ヒト白血病細胞株UT-7/EPO及びヒト胎児血由来CD34陽性造血幹細胞から分化させた赤芽球系前駆細胞を用いて検討し,以下の新知見(A)(B)を得た. (A)EPO存在下のMAPキナーゼ経路は,Bcl-xLのメッセージレベルでの調節と下流のカスパーゼ経路抑制によるBcl-xLの蛋白レベルでの調節の二重の経路で抗アポトーシス作用を発揮する. 1.EPO依存性ヒト白血病細胞株UT-7/EPOは,EPO除去後時間依存性アポトーシスが誘導された. 2.同アポトーシスでは,Bcl-xL蛋白の発現低下及びカスパーゼ3,6,8の活性化が観察された. 3.同アポトーシスは汎カスパーゼ阻害剤VAD添加で抑制され,カスパーゼ経路依存性である. 4.EPO添加条件下でもMEK1/2阻害剤U0126前処置にて約40%の細胞にアポトーシスが誘導されるが,同アポトーシスはVAD前処理にて阻止され,蛋白レベルでのBcl-XLの発現は増加した. 5.ヒト胎児血からCD34陽性造血幹細胞を回収し,純化した赤芽球系前駆細胞を用いた同様の実験でも,U0126によるERK1/2の活性化阻害で40%以上の細胞にアポトーシスが誘導されるが,VAD前処理にてこれが阻止され,蛋白レベルでのBcl-XLの発現は増加した. (B)EPOが調節するアポトーシスに対して,赤芽球系前駆細胞は細胞周期,特にG0/G1アレストの調節機構により抗アポトーシス作用を発揮する. 6.MEK1/2阻害により誘導されるアポトーシスがカスパーゼ阻害剤VAD前処理で抑制される時に,G0/G1期の細胞の割合は35%から67%へと増加し,細胞周期調節蛋白p27/Kip1の発現も増加した. 以上より,EPOは複数のシグナル伝達経路を有することで,赤血球系造血の増殖,分化を巧妙に調節しているものと結論した.
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