研究概要 |
急性リンパ性白血病では時にt(1;14)(q25;q32)という染色体異常を認めることがある。我々はすでにこの異常が1q25上のLhx4遺伝子と14q32上の免疫グロブリン重鎖遺伝子が遺伝子再構成し、Lhx4遺伝子が過剰発現することを報告した。Lhx4遺伝子の過剰発現が細胞の癌化と関係していることが予測された。Lhx4蛋白はその構造から転写因子であると予測され、その下流の遺伝子の発現を増加させると予測された。Lhx4蛋白によって発現が制御される下流遺伝子群の中に癌化と密接に関る遺伝子群が含まれると予測された。そこで、Lhx4遺伝子を発現していない肺がん細胞株A549にLhx4遺伝子を一過性に強制発現させたものとempty vectorを遺伝子導入したものをDNAマイクロアレイを用いて発現している遺伝子群の比較を行った。また、同様にLhx4安定発現株とコントロール株を樹立し、それいぞれに付いてDNAマイクロアレーを用いて発現している遺伝子群の比較を行った。一過性発現実験および安定発現株実験において共にLhx4を導入した細胞株ではアポトーシス抑制作用のある蛋白をコードする遺伝子群(IAP: inhibitor of apoptosis 1,2など)が比較細胞に比べて過剰に発現していることが予測させた。その発現レベルの差はReal-time PCR法により更に確認された。この結果を元に、Lhx4安定発現株とコントロール株を用いて紫外線、放射線、各種抗がん剤に対する感受性(アポトーシスの誘導率)を比較した。しかし、それぞれの株で感受性(アポトーシス誘導率)に差は認められなかった。そこで、これらのLhx4下流遺伝子群がmRNAレベルでは差を認めるが、たんぱく質レベルでの発現量に差があるかどうかウエスタンブロット法で検討した。その、結果各細胞株間でIAP1,IAP2蛋白の発現量に差は認められなかった。この結果は使用した肺がん細胞株A549では元来IAP1,IAP2の蛋白量が何らかの機序により高発現しており、Lhx4遺伝子の導入によるmRNA発現量の増加は蛋白レベルの増加に結びつかないことによると考えられた。現在、細胞株を変えて更にLhx4遺伝子導入による細胞のアポトーシス誘導能への影響を検討中である。更に、IAP1,IAP2遺伝子のプロモーター領域をクローニング中であり、今後これらの領域の中でどの領域がLhx4蛋白によって認識されるかを欠損mutantを作成して検討する計画である。
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