研究概要 |
尿蛋白は糖尿病性腎症の糸球体障害度の指標であり、増悪進展因子でもある。尿蛋白の機序として酸化ストレスによる糸球体基底膜の障害があるが、その産生源は好中球やマクロファージとともに糸球体細胞、特にpodocyteのNADPH oxidaseが重要である。糖尿病性腎症では腎臓組織angiotensin IIによりNADPH oxidase発現が亢進し、活性酸素産生が増加している。ACE阻害薬、AT1受容体遮断薬、抗血小板薬ジピリダモールあるいはp38MAPK阻害薬、NADPH oxidase阻害薬のapocyninは糸球体上皮細胞のNADPH oxidaseを抑制しラジカル産生減少により、蛋白尿は減少した(Kidney Int 61:186-194,2002;Diabetes Res Clin Pract 2003;59:83-92)。Nephrinは糸球体上皮細胞の細胞膜上のlipid raftに存在し、コレステロールの増大はnephrinの発現に影響する。高コレステロール食負荷糖尿病ラットではICAM-1による糸球体内浸潤細胞の増加と糸球体上皮細胞NADPH oxidase亢進により酸化ストレスが増加し、尿蛋白はより増加した。ラジカル消去作用をもつSU剤のgliclazideはglibenclamideに比べ、糸球体NADPH oxidaseの抑制と糸球体浸潤細胞の減少から酸化ストレスを有意に抑制した(Kidney Int2004;65(3)951-960)。単離糸球体上皮細胞をangiotensin IIで培養するとNADPH oxidase, actin, nephrin, ZO-1などの発現が変化し、糸球体上皮細胞での酸化ストレスによるactinの変化がslit membraneの構造変化やnephrinの発現低下による蛋白尿につながると推測される。近位尿細管の機能は糖尿病性腎症で障害されている。糖尿病性腎症で減少した近位尿細管のmegalinはACE阻害薬やARBで回復し、megalinによるアルブミンのendocytosisが改善し微量アルブミン尿が減少する(Hypertens Res 2003;26:413-419)。 結論:糖尿病性腎症では糸球体上皮細胞のNADPH oxidaseが亢進し、活性酸素の産生が増加し、蛋白尿増加、腎症の発症進展に関与しているが、NADPH oxidase抑制により尿蛋白の減少、糸球体組織障害の抑制をもたらす。
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