研究概要 |
成人における成長ホルモン(GH)の病態生理的意義に関して以下に示す知見を得た。 (1)成人GH分泌不全症(GHD)およびGH過剰症における糖・脂質代謝異常に関する検討 成人GHDにおいて耐糖能異常を20%(糖尿病4%,耐糖能障害(IGT)16%)に,脂質異常を59%(高コレステロール(CHO)血症+高中性脂肪血症(TG)24%,高CHO血症18%,高TG血症17%,低HDL-CHO血症55%)に認め,糖,脂質代謝異常を高率に合併していた。これら成人GHDではBMI25以上の肥満を35%に認め,高頻度に非アルコール性脂肪肝炎を合併していた。動脈硬化の一指標である頚動脈の内膜・中膜厚(IMT)の肥厚とプラーク形成を各々27,20%に認めた。また,HOMA-Rは2.87±0.38と高く,インスリン抵抗性を認めた。 GH過剰症である先端巨大症では耐糖能異常を78%(糖尿病45%,IGT33%),高脂血症37%の合併を認めた。またHOMA-Rは3.59±0.56と高値であり,インスリン抵抗性を認めた。耐糖能の程度によりI血中IGF-Iの値には差を認めないが,糖尿病群では血中GHが高値を示した。本症での耐糖能異常に対してIGF-Iのインスリン様作用としての関与は少なく,GHの過剰により規定される因子が大と考えられた。 (2)成長ホルモン(GH)分泌異常症におけるインスリン抵抗性と血中アディポサイトカイン GH分泌過剰症のみならずGHDでもインスリン抵抗性をきたすことが知られている。本研究ではこれら病態でのインスリン抵抗性を調節する因子としてのアディポネクチン(A)とレジスチン(R)の関与について検討した。成人GHD44例,先端巨大症49例,健常人57例を対象とし,血中A, RをELISAにて測定した。GHD,先端巨大症のHOMA-Rは健常人に比べて高くインスリン抵抗性を認めた。血中A値は両疾患と健常人との差はなかったが,GHDで先端巨大症に比較し有意に低値であった。A値はGHDではHOMA-R, BMIと負の相関を示したが,先端巨大症ではHOMA-Rとの相関はみられず,BMIとのみ負の相関を認めた。血中R値はGHDにおいて,先端巨大症,健常人より有意に高値であったが,両疾患においてHOMA-R, BMIとの相関は認めなかった。GHDでは先端巨大症に比較し血中Aの減少とRの増加がみられ,これらアディポサイトカインがインスリン抵抗性に関与する一方,先端巨大症におけるインスリン抵抗性においては直接の関与は少ないことが示唆された。
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