研究概要 |
我々は血管平滑筋細胞(VSMC)において、インスリンの細胞内シグナルはPI3-kinaseの活性化を介すると報告してきた。本研究ではPI3-kinaseの持続的な活性化のVSMCでの遺伝子発現調節における役割を組み替え型アデノウイルスを用いて検討した。 PI3-kinaseのcatalytic subunitであるp110-αを組み替え型アデノウイルス(p110CAAX)を用いて、SDラットの胸部大動脈より単離したVSMCに過剰発現した。発現ウイルス量依存的にVSMCでのmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)のmRNA発現が15-20倍に増加した。従来、MCP-1の発現は、転写因子NF-κB, AP-1によって調節されることが報告されており、これらの転写因子の活性化をゲルシフト法を用いて検討した。その結果、転写因子NF-κB, AP-1はともにp110CAAXの過剰発現では活性化されなかった。そこでMCP-1遺伝子の上流域3.6kbをクローニングし、そのプロモーター解析を行った。転写開始点上流2.6-3.6kbにPI3-kinase依存性転写調節部位が確認でき、転写因子の認識配列の検索からこの領域に2ケ所のC/EBPコンセンサス配列の存在を認めた。さらにゲルシフト法、Northern blot解析、核蛋白のウエスタンブロット解析、組織染色解析より、p110CAAXの過剰発現が核内のC/EBP-β,δの発現を増強することを確認した。また、C/EBP-βおよびδの発現ベクターがMCP-1プロモーターの活性を増加させること、NF-κB認識部位の塩基置換は影響しないにも関わらず、C/EBP認識部位の塩基置換によってPI3-kinase依存性のMCP-1プロモーター活性が低下することを確認した。 以上、VSMCにおいてPI3-kinaseの特異的持続的活性化は転写因子C/EBPの核内発現を増加させ、proinflammatory geneの発現を誘導しうることを明らかにした。この現象は高インスリン血症の動脈硬化発症進展の機構を解明する上で興味深い結果と考えられた。
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