研究概要 |
ストレス蛋白hsc70の抗腫瘍効果についてはこれまで須藤,鵜殿,Srivastavaらにより動物モデル(マウス)において示されてきた.近年,hsc70特異的受容体が同定され,hsc70に関わる抗原提示のメカニズムが明らかにされつつある.それにともないhsc70を用いた癌ワクチンの臨床応用に対する期待が高まっている.しかしこれまでの研究の多くがマウスにおけるものであり,ヒトの癌抗原システムにおける詳細な解析は行われていない.今回,我々はヒト癌抗原として同定されたNY-ESO-1抗原決定基とhsc70の融合蛋白で抗原提示細胞(樹状細胞)を感作し、NY-ESO-1抗原決定基が樹状細胞のMHC class I上へ提示されることをNY-ESO-1特異的細胞傷害性T細胞によって証明した. 1.癌抗原とhsc70の融合蛋白の作製 健常人末梢血からtotal RNAを抽出した.RNAからRT-PCRによりhsc70のcDNAを得た.5'末端および3'末端のどちらか一方にNY-ESO-1の抗原決定基を含むプライマーを用いてcDNAを増幅し,NY-ESO-1とhsc70の融合遺伝子を作製した.融合遺伝子を発現ベクター(pQE31)に組み込み.さらに大腸菌(M15株)に導入しNY-ESO-1とhsc70の融合蛋白を発現させた.融合蛋白は菌体を破砕して抽出した後,さらに核酸・エンドトキシン除去(Kurimover)も併用して精製を行った. 2.抗原提示細胞(樹状細胞)の誘導 樹状細胞は,健常人末梢血単核球から単球を分離し,IL-4,GM-CSF存在下(各々1000U/ml)で5日間培養して誘導した.誘導された樹状細胞の細胞表面マーカーはFlow cytometryにより確認した. 3.融合蛋白由来抗原エピトープの提示 NY-ESO-1とhsc70の融合蛋白を用いて抗原提示細胞(樹状細胞)を感作した.さらに,感作された樹状細胞をNY-ESO-1抗原特異的細胞傷害性T細胞(Clone5)と共培養し,Clone5からのIFN-γ産生をELISPOT assayにより確認した. 今後は,樹状細胞上のhsc70特異的受容体の同定を含めた抗原提示経路の解明が必要である.
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