研究概要 |
ドナーとレシピエントのABO血液型が不適合の場合,ドナー血液型抗原(血管内皮,胆管に発現)に対するレシピエントの既存抗体が激しい拒絶反応を惹起するため,ABO血液型不適合肝移植は一般的に禁忌とされている.本研究では,このような問題の中心となる既存抗体による液性拒絶反応を,薬剤のグラフトへの局所投与(門脈投与)という新しい方法で制御しようとするものである. [ドナー抗原既感作ラットに対する肝移植モデルの確立]:近交系雄性ラットBNをドナーに,Lewisラットをレシピエントに用いて同所性肝移植を行うと,急性拒絶反応が一時的に惹起されるものの自然治癒し,ほぼ全例が長期生存する.一方,肝移植予定のLewisラットにBNドナーから採取した皮膚片を移植を行い(14および7日前の2回),ドナー抗原に曝露させた後に同様の肝移植を行うと,既存抗体による液性拒絶反応が加わるため30日以内に死亡することが明らかとなった.グラフト肝の病理組織像は、臨床におけるABO血液型不適合肝移植後1ヶ月以内に発生する肝壊死と類似した所見であり、本モデルが実験的にこの現象を良く再現したものであると考えられた。この方法により,臨床例に類似した液性拒絶反応の小動物モデルが作成可能になった. [門脈内薬剤投与によるimmunomodulation]:肝移植時に細径カテーテルをレシピエントの門脈内に留置し,体内埋め込み型浸透圧ポンプを接続する方法を開発し,術後14日間の薬剤持続投与が可能となった.この方法でプロスタグランジンE1(血管拡張,抗血小板作用)、肝代謝型ステロイド剤・budesonide, gabexate mesilate(抗血小板・炎症性サイトカイン作用)などを単剤または同時門脈内持続投与してグラフト局所のimmunomodulationを行い,生存率および肝組織障害の程度を観察したところ、生存期間の延長と組織学的拒絶反応の抑制の傾向を示した。
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