研究概要 |
癌細胞が発現する粘液糖蛋白の糖鎖構造の変化はその転移,浸潤能に影響を与えることが知られ、モノクローナル抗体MY.1E12で認識されるシアリル化MUC1ムチン(MY.1E12)の発現が癌の悪性挙動を反映するという報告がある。本年度はまず、スキルス胃癌におけるMY.1E12.の発現状態を検討したが、スキルス胃癌では他の進行癌に比べてむしろ、MY.1E12の発現が少ないことがわかった。その理由を解明することは重要であると思われるが、スキルス胃癌に限定せず、進行胃癌症例におけるMY.1E12の発現を免疫組織学的に解析し臨床病理学的因子と比較検討した。【方法】治癒切除術を施行した進行胃癌91例(Stage II 43,IIIa 26,IIIb 22)を対象とし、MY.1E12による免疫染色を施工してその細胞内局在を刷子縁型,細胞質型,間質型に分類した。連続切片でin situ hybridization (ISH)法を行いMUC1mRNAの分布を観察した。また、E-cadherin,β-cateninの発現を免疫染色で評価した。【結果】MY.1E.12陽性率は分化型胃癌が未分化型胃癌より高値であり、癌浸潤部では間質型の割合が増加した。刷子縁型を示す細胞ではMUC1mRNAは主に刷子縁近傍にシグナルな発現が多く、E-cadherinの発現は肝転移症例でも比較的保たれていた。5年生存率は刷子が観察されたが、細胞質型,間質型では細胞質全体に見られた。湿潤部におけるβ-cateninはMY.1E12同様,aberrant縁型(89%),陰性(77%),細胞質型(65%),間質型(41%)であった。分化型胃癌ではaberrantな発現である細胞質型+間質型が有意に予後不良であり(p=.004)、肝移転再発を多く認めた(p=.008)。未分化型には差がなかった。MY.1E12のaberrantな発現は分化型進行胃癌においてその生物学的悪性度を反映する指標として有用であった。【考察】分化型胃癌はその増殖過程において、糖転移酵素の転写レベルが管腔側の表面から細胞質へ移行し、MUC1の局在もその極性を失い、細胞質や間質へ偏位する。このことにより、癌細胞間の接着性が低下し、細胞障害性Tリンパ球から逃れ、さらに血管内細胞への接着性を獲得して、転移を形成すると推測される。MUC1の局在性を維持することが癌細胞の悪性挙動を制御すると考えられ、これを実証することが次の課題である。 以上の要旨は第89回日本消化器病学会総会ワークショップ、第103回日本外科学会定期学術集会サージカルフォーラム、第5回国際胃癌学会議において発表する。
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