研究概要 |
腸音のデジタル解析とその臨床応用を目的として,ラットを用いた実験モデルの確立を目指した。まず、体重300g前後の雄ラットをエーテル麻酔で鎮静させ、頸静脈に中心静脈カテーテルを留置した。次に、正中開腹し回腸末端より1cmの腸にナイロン糸をかけ、その糸を腹壁外に誘導した後に閉腹した。後日、造影剤を含んだ餌を経口摂取させ、体外から糸を引っ張ることで腸閉塞が形成されることを確認した(以上が腸閉塞モデル)。コントロールとしては、開腹後5分間放置しその後閉腹したものを単開腹群とした。腸音の測定は、直前まで水分摂取を制限せず、頸静脈ルートから持続塩酸ケタミンを投与し浅麻酔下で行われた。小型マイクロフォンをラットの腹壁に密着固定し、当初は1か所からの腸音を測定記録した。測定時間は30分とし、AD変換器にてデジタル信号化しコンピューターに入力した。結果として、腸音を含む音の入力は可能であったが、全体的に音の強さが弱いこと,ならびに低周波帯音(200Hz以下)の頻度が高く、心臓音との重複が問題となった。また、腸音の発生には水分以外に空気の存在が必要であり、ラットの口からチューブを挿入し1.5mlの空気を注入する工夫も追加した。それらにより、単開腹群に比較して腸閉塞モデルでは確実に腸音は亢進していたが、ヒトの腸音とは異なり、やはり低周波帯に音は集中していた。以上の結果より,ラットとヒトの腸音との相関性が低いのではと判断し,インフォームドコンセントの後,成人ボランティア男性の空腹時ならびに流動栄養食摂取後の腸音測定を上記と同様なシステムで行った。その結果、既存の報告のように、腸音は200-400Hzに集中しており心音との分離は比較的容易であった、また、食後には腸音の亢進が著しく,腸音の発生に食物内容(空気と水分)の存在が必要であることが再確認された。現在,ヒトを用いた腸音のデジタル解析を継続するとともに,ラットモデルでの心音と腸音の分離手法(フィルタリングなど)を検討中である。
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