研究概要 |
腫瘍組織が低酸素状態に陥った時、生き延びるために遺伝子(p53変異)と間質(血管新生)の変化をきたす。正常では血管新生を抑制するp53蛋白の異常発現と、低酸素状態で核内に移動して血管新生を促すhypoxia inducible factor(HIF)の発現を胃癌組織において調べ、両者の発現と癌の浸潤・転移および予後に与える影響が明らかになった。切除胃癌原発巣216例を対象にし、パラフィン包埋切片にp53,HIF1-α、vascular endothelial growth factor(VEGF)、CD31に対する抗体を用いた染色を行ったp53(-)HIF(-)(n=68),p53(+)HIF(-)(n=63),p53(-)HIF(+)(n=46),p53(+)HIF(+)(n=39)の4群に分けて検討した。p53(+)HIF(+)の群で、有意に未分化型が多く、リンパ管浸潤陽性例、リンパ節転移陽性例が多かった。VEGF陽性率も高く、腫瘍内血管数も高値を示した。各群の5年生存率は、p53(-)HIF(-);77%,p53(+)HIF(-);62%,p53(-)HIF(+):58%,p53(+)HIF(+):41%であり、p53(+)HIF(+)の群が有意に予後不良であった。Coxの多変量解析では、HIF1-α蛋白発現の有無が、リンパ節転移、探達度、肝転移、腹膜播種とともに独立した予後因子であった。胃癌が低酸素状態に陥ると癌細胞のHIFの発現を介して血管新生因子VEGFが誘導され、血管新生を促す。特にp53に異常が認められる場合は抑制が効かず、血管新生が盛んになった癌は浸潤・転移をきたしやすく、予後不良になると考えられる。一方食道癌114例の検討でも、HIF陽性例はVEGF陽性例が多く、静脈浸潤陽性例が多かった。VEGF陽性例の予後は陰性例に比べて有意に不良であった。
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