研究概要 |
【目的】わが国では胃癌が原因で年間5万人が死亡している。胃癌術後の腹膜再発は再発形式の中でも頻度が高く、その予後は極めて不良であるが、有効な治療手段が確立されていない。癌が浸潤・転移する際の主病巣周囲の細胞外マトリックスの破壊は重要なステップであり、我々はこの点に着目し、これまでヒト消化器癌、頭頚部癌、肝臓癌組織中のマトリックス分解酵素(matrix metallo poteinase : MMP)が癌の生物学的悪性度と密接な関連があることを明らかにしてきた。MMPの活性阻害が、腫瘍の進展阻止につながると推測され、本研究を計画した。【方法と結果】柑橘系フラボノイドであるノビレチンは、沖縄産シークワーサーから抽出されるフラボノイドでMMP-9の発現を特異的に抑制することが知られている。一般にフラボノイドには、多岐にわたる生物活性が報告されていることから、増殖抑制効果、細胞周期への影響、既存の抗癌剤との併用効果などについても併せて検証した。まず、腹膜播種モデルを作成して、ノビレチンの転移抑制効果を検討した(TMK-1(1x10^6個)をSCIDマウス腹腔内投与)。その結果、ノビレチン投与群ではコントロール群に比べ、腹膜播種結節の形成が有意に抑制された。ヒト胃癌細胞株TMK-1,MKN-45,MKN-74,KATO-IIIに対するノビレチンの増殖抑制効果をMTT assayを用いて検討したところ、どの株においても増殖抑制を示した。細胞周期についてはFlow cytometry法を用いたDNA histogramにより検討したところ、TMK-1の培養液にノビレチン添加後24時間でG1 blockを認めた。【結論】ノビレチンは直接の細胞増殖抑制効果のみならず、MMP-9産生阻害を介してヒト胃癌株の腹膜播種形成を抑制することが示された。既存の抗癌剤との併用による胃癌治療への応用が期待される。
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