研究概要 |
【目的】食道癌の治療成績は3領域リンパ節郭清手術の完成や化学放射線療法の普及により近年向上が認められるが,食道癌は他の消化器癌に比べてリンパ節をはじめとする転移率が高くその転移分布も広範囲に及ぶことから治療成績は未だ満足すべきものではない.食道癌に対する新たな分子標的治療の開発を目的として細胞周期を停止させるCDK阻害剤の一つで合成フラボンであるflavopiridolを用いて食道癌細胞株に対する直接作用,および放射線併用時の抗腫瘍効果の検討を行なった. 【方法】食道癌細胞株であるKE4,TE8,TE9を用いてflavopiridol暴露実験を行ない,MTTアッセイで評価を行なった.cyclin D1,Bc1-2,Rb蛋白発現はウェスタンブロットで評価を行なった.細胞周期の評価はBrdU kit, EAC-Scan (Becton Dickinson)を用いてflow cytometryを行なった.flavopiridolの投与量は0.05〜400nMで暴露時間は48時間とした.さらにflavopiridolと放射線照射の併用効果実験として,0.05nMのflavopiridolを48時間暴露した後に2〜10Gyの放射線照射を行ないflavopiridolと放射線の併用効果をコロニー形成法で評価した. 【結果】flavopiridolのIC_<50>は110〜250nMであり48時間暴露で70〜80%の抗腫瘍効果を示した.また0.05nMの低容量のflavopiridol投与によってG2/M期細胞の増加が,300nM投与ではG1期細胞の増加が3つの細胞株全てにおいて認められた.また300nM投与後に3つの細胞株全てにおいてcyclin D1,Rb蛋白発現の減少が認められ,Bcl-2蛋白発現の減少はTE8,KE4で認められた.KE4細胞では0.05nMの低容量投与でもcyclin D1,Bcl-2,Rb蛋白発現が減少した.また全ての細胞株において0.05nMの低容量flavopiridol暴露後の放射線照射はflavopiridol単独群,放射線照射単独群に比べて有意に高い抗腫瘍効果を認めた. 【考察】単独では殺細胞効果が認められない非常に低容量のflavopiridolの暴露が食道癌細胞の放射線に対する治療感受性を高める可能性が示唆され,分子標的治療薬であるCDK阻害剤と放射線併用治療法の新たな食道癌治療の可能性が開拓された.
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