研究概要 |
1.ラット肺移植における検討 臨床肺移植における虚血再潅流時においてはprotein tyrosine phosphorylation急激な変化が認められる。ラットの片肺移植モデル(LEW to LEW,LEW to BN)においてもこのような変化が認められるかどうかを検討した。6時間後の冷保存(low-potassium dextran glucose,4℃)後に移植を行った。Isograftとallograftにおいて,移植後の肺機能は良く保たれていた。虚血再潅流後2時間でprotein tyrosineのリン酸化,protein tyrosine kinaseとprotein tyrosine phosphatase活性は減少していた。Src蛋白発現とp38 MAPKのリン酸化の程度は低下していた。このラット肺移植モデルは肺の虚血再潅流の研究に有用である。 2.臨床肺移植検体におけるMAPK活性の検討 トロントジェネラル病院における肺移植症例のサンプルを用いて,肺保存,虚血再潅流時のMAPKのリン酸化状態(活性化)を検討した。15検体について,冷保存終了後,温阻血終了時,虚血再潅流後1時間および2時間後について検討した。ERK,p38-MAPK,JNKおよびMEKのリン酸化状態をウエスタンブロットにより検討した。ERKのリン酸化状態は虚血再潅流後2時間で劇的に増加した。JNKのリン酸化もその増加の程度は低いが増加を認めた。一方,p38のリン酸化においては有意な変化は認めなかった。ERKの活性化は,ERKの上流酵素であるMEKの活性化とは関連性を示さなかった。これらの結果はERKの上昇は単にMEKの活性化にはよらないことを示している。MKP-3は特異的にERKのdeactivateをもたらすとされている。また,MKP-3の蛋白発現はその酵素活性と対応しているとされる。そこで,MKP-3の蛋白発現を検討したところ,MKP-3蛋白発現は虚血再潅流後有意に増加していた。従って,ERK活性化の上昇はMKP-3蛋白発現によるものではないと考えられた。
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