研究概要 |
神経線維腫症1型(NF1)及び2型(NF2)の病態発症予防・治療の基礎的情報を得るため、これらの原因遺伝子産物(NF1蛋白;neurofibromin, NF2蛋白;merlin)の細胞内機能を解析した。NF1においては、SiRNAによるNF1蛋白質のノックダウン法の確立を行い、NF1蛋白質の欠失による細胞内シグナル・細胞骨格の変化を生化学・形態学的に解析するとともに、NF1高変異部位であるC末端部位に対する結合タンパク質をプロテオミクスの手法を用いて解析した。NF1蛋白質ノックダウン細胞においては、特異的Ras-PI3Kシグナルの活性化、それに伴う細胞骨格異常、細胞膜ruffling,細胞運動能の方進が観察された.又、neurofibrominのリン酸化を制御する細胞内結合蛋白質(N-G, N-G-dimethylarginine dimethylamino-hydrolase ; DDAH)(No制御因子)、そのリン酸化を特異的に認識するアダプター蛋白質14-3-3がneurofibromin結合タンパク質として同定された。さらに14-3-3はneurofibrominのC末端部のリン酸化クラスター部位(Ser2576,Ser2578,Ser2580,Ser2813,Thr2556)に結合してGAP活性を抑制することが判明した。neuro fibrominは細胞内にてGAP活性を制御することによってRAS活性を調節しており、その過程にはneurofibrominのリン酸化、及びそれを制御する結合蛋白群の相互作用が重要であることが示唆された。一方、Merlinに関してはプロテオミクスの手法によって、DNA修復酵素であるPARPやKu75,Ku80,DNA-Pks含む8つの細胞内結合蛋白質が同定された。これらの相互作用によってpoly ADP-ribosylationを受けること、これらの結合蛋白質と核・細胞質・膜へのシャトルするためのスカフォードとして機能していること、さらには核へ移行したMerlinが、各種遺伝子の転写調節に関わっている可能性があきらかとなった。プロテオミクスによる、細胞内NF1,NF2関連分子の検索はこれらを介した細胞内シグナル解析と新規治療薬の開発に応用できる可能性があり、今後の詳細な解析が期待される。
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