研究概要 |
脳腫瘍・脳虚血・外傷性脳損傷いずれの場合も脳浮腫が発生し,脳病態をさらに悪化させる.プロテアーゼであるトロンビンは血液中に存在し,脳内で様々な病態に関与する可能性が指摘されている.トロンビンの作用としてプロテアーゼ活性すなわち基質の融解による病態と細胞膜に存在する受容体PAR-2を介した細胞反応がある.さらに脳浮腫発生・水移動に関係する要因として水チャンネル蛋白アクアポリンが最近注目されている.脳腫瘍細胞培養モデル・マウス脳損傷モデル・アストロサイト細胞培養モデル・ミクログリア細胞培養モデルにて上記脳浮腫に関連するPAR2 mRNAおよびアクアポリン4 mRNAの発現を定量的RT PCR法にて検討した.今回検討した損傷脳・脳腫瘍細胞培養モデルでは有意なPAR-2の発現は確認できなかった.ミクログリアではアクアポリン,PAR-2ともに有意な発現は認めなかった.脳損傷モデルでは脳浮腫の発生とほぼ同時期にアクアポリン4の発現上昇を認めた.また,アストロサイト細胞培養モデルを用いた実験では高浸透圧負荷がアクアポリン4の発現上昇を促し,低体温負荷はその発現上昇を抑制する事が明らかとなった.水チャンネル・アクアポリンはモレキュラーレベルで水代謝に関与している.脳損傷部位では組織損傷に伴い電解質などが貯留し組織浸透圧が急速に上昇する.水は浸透圧勾配により高浸透圧の脳損傷部位へ移動し脳浮腫が発生する.しかも脳損傷部位での高浸透圧はアクアポリン4発現を増加させる可能性が明らかとなった.アクアポリンの発現が増加すれば水移動を促進される.脳損傷急性期ではアクアポリンの発現上昇は脳浮腫病態の悪化を促進すると考えられる.一方,急性期を離脱し回復期にはいるとAQP4発現上昇は脳浮腫消退を促すと考えられる.PARにおける脳浮腫病態への関与はさらに検討する必要があると考えられる.
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