研究概要 |
心拍動下冠動脈バイパス手術時,心臓への機械的刺激によって各種不整脈が惹起されることが多い.そこで,心嚢内への局所麻酔薬投与の血行動態に及ぼす影響と不整脈抑制効果について検討した.雑種成犬を対象とした動物実験を行い,心嚢内に各種濃度,各種容量の局所麻酔薬を注入し血行動態の変化,不整脈の頻度,電気的細動装置による心室細動閾値,薬剤投与に対する反応性について検討した. 雑種成犬をペントバルビタールにて麻酔導入し気管内挿管後normocapneaとなるように人工呼吸を施行した.フェンタニル,ミダゾラム,の持続静注にて麻酔を維持し以下の操作を行った.動脈圧ラインを大腿動脈に留置し,肺動脈カテーテルを大腿静脈から,外頚静脈より中心静脈圧兼心拍出量測定時の冷水注入ラインを挿入した.心電図を設置した後,第5-6肋間より開胸し心嚢内に到達し特殊加工した細径カテーテルを心嚢内に留置し,心膜を縫合した. 心嚢内に生理食塩水2.5ml,5ml,1%リドカイン2.5ml,1%リドカイン5ml,2%リドカイン5mlを投与した.薬剤を投与する前に,コントロール値として心拍数,平均動脈圧,平均肺動脈圧,中心静脈圧,肺動脈楔入圧および心拍出量を測定し記録した.続いて,生理食塩水を心嚢内に細径カテーテルを通して注入し,同様のパラメータを注入5分後から5分毎に30分間観察した.この間不整脈の発生頻度を記録した.30分間の観察終了後,心嚢内の生理食塩水を吸引除去し,血行動態がコントロール値に復した後,薬剤の心嚢内投与を行った. 心嚢内局所麻酔薬投与は適切な投与量であれば心拍出量に大きな変化を来すことなく心拍数をやや減少させ,さらに不整脈閾値を上昇させた.心室性不整脈を誘発する閾値には大きな差はなかったが,心室細動を誘発する閾値は有意に上昇させた.また,イソプロテレノール0.01mg静脈内投与による心拍数の上昇は抑制されなかったが,アトロピン0.5mg静脈内投与による心拍数の上昇は抑制された.以上の結果から心嚢内局所麻酔薬投与は一回拍出量を低下させることなく心拍数を減少させ,不整脈閾値を上昇させた.心拍数低下に対してはアトロピンの作用は抑制されたがイソプロテレノールの作用は抑制されなかった.
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