研究概要 |
脊髄損傷ラットモデルおよび末梢神経損傷モデル(坐骨神経切断)を作成して,それぞれにおける疼痛行動の評価(足振り行動,熱や機械的刺激に対する痛覚過敏,触刺激に対するアロディニア)を行った後,脊髄後根神経節および脊髄後角におけるシクロオキシゲナーゼー1およびシクロオキシゲナーゼー2(以下,COX-1およびCOX-2)タンパクの発現性について,Western blot法により解析した.また,疼痛部位におけるプロスタグランジンE_1およびI_2(以下,PGE_2およびPGI_2)を酵素免疫法(enzyme immunoassay)にて定量し,神経損傷によるこれらのメディエータの疼痛への関与について検討した.加えて,一酸化窒素(以下,NO)の定量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて定量化し,NO合成酵素(以下,NOS)阻害薬であるL-NMMAの潅流によるNO合成阻害状態により,PGE_1およびPGI_2産生への影響を検討した. 疼痛行動評価:脊髄損傷5日後より,また末梢神経損傷4日後より,足底への機械的刺激に対する明らかな痛覚過敏(逃避閾値の低下)が認められ,10日後には,その程度は一定となった.痛覚過敏状態は1ヶ月間以上にわたり持続した. PGおよびCOXの発現性:脊髄損傷モデルにおいては,COX-1,COX-2ともに,正常ラットにおける発現性は少ないが,脊髄損傷3日後に認められるようになり,5日後では,明らかな発現の増加が認められた.とくに,脊髄半切上部において,COX-2タンパクの発現の増加が著しかった.末梢神経損傷モデルでは,疼痛出現に伴い,損傷側のPGE_1およびPGI_2の産生増加,NO産生増加,そしてCOX-1およびCOX-2タンパク発現の増加が確認できた.L-NMMAの潅流により,NO産生が抑制されるとともに,COX-2タンパクの発現性が抑制された. 脊髄損傷では,損傷レベルにおけるCOXの発現増加と,それによるPGの産生増加が脊髄レベルにおける疼痛機序に関与し,末梢神経損傷では,NOがCOX-2タンパクの発現性に影響を与え,その結果,PGの産生を促進し,疼痛程度をさらに増強させていることを示唆するものであると考えられた.
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