研究概要 |
本研究は虚血性神経細胞死の原因のひとつとしてカルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系に着目して解析を施行した。まず14年度はカルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系への免疫抑制剤のCsAおよびFK506の作用を再度確認し、カルシュニューリン活性抑制およびBadを介した情報伝達系とミトコンドリア機能への影響を検討した。カルシュニューリン活性抑制は両薬剤で抑制され、CSAのみがミトコンドリア機能を維持した。また、カルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系制御に基づいて新規薬剤であるCsJを創製し、ラット前脳虚血モデルで抗虚血作用を観察した。CsJは濃度依存性に海馬CA1における遅発性神経細胞死を抑制した。また、細胞内Ca2+上昇に関与するNa+/Ca2+交換系受容体のNCXの発現を解析したが、preliminary dataとして虚血での発現減少を認めた。さらなる検討を要するものと思われた。平成15年度はPLC delta 1,2 knock out mouseを用いた神経細胞死との連関およびDNA chipによる細胞死実行経路に関与すると思われる新規遺伝子の捕捉を目的とした。小胞体からのCa2+の細胞死への関与を解析するためにPLC delta 1,2 knock out mouseを用いて12分間の全脳虚血モデルを作成した。また、PLC delta 1,2 knockout mouseに対しても同様の実験を施行した。通常のマウス(Wttype)およびPLC delta 1,2 knock out mouse間において海馬CA1における遅発性神経細胞死において有意差を認めなかった。Wttypeは海馬CA1に85%の遅発性神経細胞死を誘発し、PLC delta 1,2やknock out mouseも82%の遅発性神経細胞死誘発であった。DNA chipによる遺伝子解析実験は、CsA投与群と非投与群の間における遺伝子発現の違いを経時的に解析を行った。約14,000の遺伝子発現に差を認めた。特に、受容体の遺伝子、Heat Shock蛋白、ミトコンドリアおよびリボソーム機能に関連した遺伝子等の発現の増強が認められた。今後はDNA chipによる解析をさらに継続し、得られた遺伝子の機能解析を行い、虚血性神経細胞死における各遺伝子の役割を明らかにして行きたい。本研究より虚血性神経細胞死においてカルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系の果たす役割の重要性が明確となった。今後、臨床応用を含めて検討を加えて行きたい。
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