研究概要 |
本研究ではヒト腎細胞癌(RCC)の発生過程における第5染色体長腕(5q)の部分増幅の役割を解明することを目的として以下の研究を行った。5qの頻度を出すために分子細胞遺伝学的手法を導入し90症例の解析を行ったところ,32症例(35.5%)に5qの増幅が確認された。また,RCCを5qのコピー数で分類し,生存率を調べた結果,癌摘出後、129ヶ月で比較すると第5染色体長腕を4コピー以上有する症例では2,3コピーを持つ症例より明らかに生存率が悪い。また、術後60ヶ月で比較すると、同様の傾向に加えさらに、3コピーを有する症例が2コピーの症例よりも良好な予後を示す事が明らかとなった。このことは5qに存在する遺伝子の発現亢進が術後の予後に何らかの影響を与えている可能性を示唆するものである。そこで共通増幅領域に存在する遺伝子群について発現を解析した。正常腎細胞ではCSF1,FGF11,IL-19の顕著な発現が確認されたが,5qを2コピー持つ癌細胞ではFGF11,IL-19の発現に加え、6種類(AIF1,BMP6,FGF17,FIGF,IL-6,TNF)の発現が認められた。また、3コピーおよび4コピー以上を持つ腎癌ではAIF1,FGF6,FGF9,FGF10,FGF11,FGF17,FIGF,IL19,TNFの発現が共通して認められた。さらに3コピーを持つ症例のみにIL9,IL22の発現が特徴的に確認された。このことは、IL-9,IL-22の発現が3コピーを持つ症例の良好な予後と何らかの関連性が有ることを示唆している。とくにIL-9はTh2リンパ球を刺激し、免疫系を活性化することが知られており、IL-9の発現によって癌患者における抗腫瘍反応が活性化され、癌細胞の増殖に対して抑制的に作用している可能性が考えられる。
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