研究概要 |
中川は米国にて、HPV E6癌蛋白の分解のターゲットとなる新規蛋白として本研究課題の主題であるhuman scribbleを同定し、Mol Cell Biol.2000 Nov;20(21):8244-53に発表した。更に、中川は平成14年度より2年間にわたり、本研究費補助金を受け、human scribbleがもつ細胞極性決定機構に注目し、研究を進めた結果、培養角化細胞において、human scribbleは細胞に形態の保持に重要なadherens junctionに局在することをまずつきとめた。更に、実際にヒトの癌の発癌過程においてどのように発現を変化させていくかを検討することにより、発癌への実際の関与を検討した。我々は、子宮頸部病変の進行に伴うhuman scribbleの発現の変化を、RT-PCR法および免疫染色により解析し、正常および軽度異型上皮症においては、human scribbleは培養角化細胞における発現と同様に細胞膜に広範に発現することを示した。一方、高度異型上皮症もしくは子宮頸部癌においてはhuman scribbleの蛋白としての発現は著明に減弱したが、mRNAの発現は高度異型上皮症では正常および軽度異型上皮症と変化は無く、子宮頸部浸潤癌でのみ、発現レベルの減弱を認めた。以上より、human scribble蛋白の発現のdown-regulationが子宮頸部病変の進行に関与すること、また高度異型上皮症ではmRNAレベルでの減弱はないが、蛋白レベルでは発現が減弱化していることより、これにはHPV E6蛋白のE6APによるubiquitinを介した分解機構が関与している可能性が示され、以上の解析結果を"Analysis of the expression and localization of LAP protein, human Scribble, in the normal and neoplastic epithelium of uterine cervix. Nakagawa S, Yano T, Taketani Y.Br J Cancer. 2004Vol.90, 194-9"に、報告した。また、もう一つの課題であるhuman scribbleの胚発生への関与については、human scribbleは8細胞期より、核内、特に紡錘体に発現を認め、16細胞期以降では、胚の極性の発生とともに、核内の発現は消失し、その他のjunctional proteinと同様に細胞膜に発現することが明らかにされ、上皮細胞で細胞の形態維持に関与する癌抑制タンパクのscribbleは、初期胚発生においても細胞極性の決定に関与し、胚発生過程をコントロールする可能性が示された。現在、human scribbleに対するRNAiを用いて、そのmRNAの発現を阻害することにより、初期胚発生がどのような影響を受けるかを検討している。
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