研究概要 |
癌の転移は複雑な生命現象である。現在まで転移を制御するマスター遺伝子は同定されておらず、多数の遺伝子が協調的に発現し、転移を成立させているものと思われる。従って、従来の単一の遺伝子に注目した解析法では、転移の全貌を明らかにするのは困難であると思われる。近年急速に普及したマイクロアレイ解析法は、同時に多数の遺伝子の解析を可能にし、転移のメカニズムの分子レベルでの解析を大きく前進させる可能性を秘めていると思われる。 当科で樹立した卵巣がん細胞株で、腫瘍増殖・転移能のほとんどないykt株のごく一部に存在する腫瘍増殖能が高く、高転移性のクローンをin vivoのアッセイ系(マトリゲルを使用した卵巣癌同所移植動物モデル)で濃縮し亜株として樹立することに成功した(ykt-m)。転移能のほとんどないykt株と、動物モデルで腹膜・リンパ節・肝臓へ高転移を示す亜株であるykt-mとを、Clontech社のオリゴヌクレオチドアレイ(Cancer Array;1176遺伝子)で比較した。間質との相互作用により誘導される遺伝子を除外するために、各株はin vitroで培養した状態でRNAを抽出した。その結果up-expression geneはEGR1とplacental calcium-binding protein (calvasculin)であった。一方down-expression geneはretinoic acid receptor beta, BRCA1-associated ring domain protein, integrin beta8precursor, fibroblast growth factor, RBQ1retinoblastoma binding protein, HLA-DRantigen-associated invariant subunit, MHC class II HLA-DR-beta precursor, cleavage stimulation factor 77-kDa subunitであった。現在EGR1と卵巣癌転移能の関係を検討中である。
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