研究概要 |
周産期死亡の主因である奇形発生機構については未だ不明の点が多い.今回の検討で,糖尿病妊娠では胎仔奇形の頻度の増加を認め,その胎児,胎盤でDAGの増加,PKC活性の上昇,またいくつかのPKC isoformの増加が起こっていることを初めて報告した.この変化は正常妊娠マウスの器官形成期であるday7.5に一過性に血糖200mg/dl以上にした場合にも観察された. PPARγは脂肪細胞の分化・成熟を制御し,インスリン抵抗性に関与し,PPARγ欠損マウスは胎盤形成異常のため胎生致死となり,VEGFはPPARγ ligandによって亢進されることが報告されている.マウス胎盤ではPPARγ,VEGF共に妊娠早期より発現し,糖尿病例でより強く発現していた.BeWo細胞では高糖濃度下でPPARγの発現量・hCG産生は増加し細胞増殖は減少したが,この変化はligand投与により改善し,胎盤機能障害治療の可能性を示した. 糖尿病では酸化ストレスが亢進しているが,正常ヒト妊娠初期絨毛にはRAGEの発現が認められ,BSA-AGEは濃度依存性にhCGの分泌を有意に抑制し,絨毛細胞のアポトーシスを誘発した.すなわち,酸化ストレス,特にAGEs,RAGE系は妊娠初期胎盤機能調整に重要な役割を果たしていることを示した. また,糖尿病合併妊娠,特に高血圧合併例で血液流動障害が起こっており,胎仔体重も有意に減少した. ビスフェノールAなどの,いくつかの内分泌攪乱物質は子宮組織内でレセプターとコアクチベータレベルの変化を介して,またERとコアクチベーターTRP220との結合における変化を通じて内分泌機能を変化させて着床前の子宮環境に影響を与えていることを報告した. 今回の研究で妊娠前,妊娠初期の糖尿病における,また内分泌攪乱物質による代謝障害,奇形,子宮内発育障害発生機序の一端を明らかにした.
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