研究概要 |
我々は妊娠中毒症血管における妊婦より得た大網抵抗血管の研究ではこれまでに内皮由来nitric oxidc(NO)の機能異常が発生していることを明らかにしてきた。このNOの機能異常は内皮でのNO生成の減少によるのではなく、むしろ血管平滑筋でのNOの反応性の減少、特にNOによるcGMP生成以降の情報伝達系のdown regulationに起因しているとの新しい説を提唱した(Suzuki et al. J Physiol,2000)。今回は、妊婦大網抵抗血管を用いて、妊娠中毒症での内皮由来prostacyclin(PG12)の特性変化について検討した。その結果、内皮由来PG12の反応性はNOと同様に低下が認められたが、それは内皮でのPG12の産生障害が主であることが明らかとなった(Suzuki et al.2002)。また、内皮由来膜過分極因子(EDHF)は以前の筋弛緩と収縮の検討において、妊娠中毒症抵抗血管ではその機能が維持されていることが推察されていた(Suzuki et al. J Physiol,2000)。今回、我々は微小電極法を用いて膜過分極反応を観察した結果、妊娠中毒症抵抗血管ではEDHFが維持され、それが代償的に働いていることを世界で初めて明らかとした(Suzuki et al. J Physiol,2002)。この結果は、妊娠中毒症が高血圧疾患や糖尿病などの血管病とは異なる病態であることが示唆され、その臨床的意義は大きい。さらに、電子顕微鏡を用いて大網抵抗血管における超微構造を検討した。その結果、内皮における形態上の異常はなく、この結果によっても妊娠中毒症が他の血管病と異なっていることが明らかとなった(Suzuki et al. Am J Obstct Gynccol,2003)。 妊娠中毒症抵抗血管における内皮機能変化の機序解明のためのモデル動物としてニトログリセリン耐性ウサギを作成した。その結果、cGMPの反応の低下に活性酸素が関与していることが明らかとなった(Nakano et al. Br J Pharmacol,2004)。現在、活性酸素種が血管でのNOやPGsの機能障害に中心的役割を果たしていると考え、さらに検討を進めている。また、活性酸素種を調節因子として局所のrenin-angiotesin系に着目し、妊婦大網抵抗血管やニトログリセリン耐性ウサギによる研究を進めている。
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