研究概要 |
本研究では、卵巣癌細胞におけるH遺伝子の細胞生物学的意義を明らかにする目的で、H遺伝子を細胞に導入した際の細胞特性の変化について検討した。哺乳類発現ベクターにヒトH型糖鎖遺伝子あるいはマウスα1,2フコース転移酵素遺伝子(MFUT-1,MFUT-2)を挿入し、この発現ベクターをヒト卵巣癌由来培養細胞株RMG-IIに導入した。なお、H型糖鎖遺伝子はα1,2フコース転移酵素遺伝子をコードしており、フコースを付加する働きを有している。ヒトH遺伝子およびMFUT-1,MFUT-2遺伝子を導入した形質転換細胞では、α1,2フコース転移酵素活性が亢進すると同時に、薄層クロマトグラフィー免疫染色法にて、コントロールである卵巣癌由来培養細胞株RMG-IIに比べルイスY型糖鎖の発現量が増加した。また、コントロール細胞ではシアリルルイスX型糖鎖やシアリルLc4Cerの発現が認められたが、一方形質転換細胞ではこれらシアリル化糖鎖の発現は消失した。細胞特性に関しては、H遺伝子を導入した形質転換細胞はコントロールに比べ細胞の大きさは縮小し、また細胞間の接着能は増加した。抗がん剤に対する感受性については、形質転換細胞はコントロール細胞に比べ5-FUに対する感受性が低下し、耐性細胞は増加した。以上のことから、ヒト卵巣癌由来培養細胞株では、H遺伝子を導入しα1,2フコース転移酵素の活性を亢進させると,細胞膜糖鎖のフコシル化が亢進しシアリル化は減少するとともに、細胞間接着能が増加し、5-FUに対する感受性は低下することが判明した。以上のことから、卵巣癌細胞では、フコシル化糖鎖が細胞間接着能や5-FUに対する感受性に関与することが示唆された。
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