研究概要 |
当科受診の咽喉頭異常感症患者14各、喉頭肉芽腫症患者5名について、胃食道逆流症に関する問診を行った後、喉頭所見を観察するとともに患者の咳感受性を測定した。咳誘発物質であるカプサイシンを0.49,0.98,1.95,3.9,7.8,15.6,31.2,62.5,125そして250μmol/lの濃度の溶液として用意し、薄いものから順に吸入させた。咳嗽が5回認められた濃度を咳閾値と判定し、吸入器にはアストグラフを用いた。 咽喉頭異常感症患者におけるカプサイシン咳感受性は6.8であった。健常者の咳閾値は7.8〜31.2μmol/lとされており、われわれの施設では平均11.2であったので、咽喉頭異常感症患者ごく軽度のカプサイシン咳感受性の亢進があることが推定できたが、統計学的に有意差が得られるところまでにはいたらなかった。これら咽喉頭異常感症患者に対してPPIを2週間投与し、異常感、咳嗽に対する効果をみたところ、咽喉頭異常感症患者14名中8名で異常感の軽減が、咳嗽が5名中2名で改善した。投与前のカプサイシン咳感受性平均は6.8であったが、投与2週間後のカプサイシン咳感受性は8.5とわずかに低下していた。咽喉頭異常感の改善した8名中5名に咳感受性の低下を認めたが、3名では変化がなかった。また咽喉頭異常感に変化のなかった6名のうち2名に咳感受性の1段階低下を認めた。喉頭肉芽腫症患者5名ではPPIを3ヶ月投与し、全員で肉芽腫の縮小を見た。肉芽腫患者1名に消化管24時間pH測定を行ったところ下咽頭においてpHが4以下の逆流時間は2分、pHが5以下の逆流時間は38分であった。カプサイシン咳感受性は投与前3.9から投与後7.8に低下していた。PPI投与後のpH測定の協力は得られなかった。PPI投与で異常感が軽減する結果から咽喉頭異常感症患者の中には、胃酸の咽頭・喉頭への逆流が異常感発現の原因となる一団が存在すること、胃食道逆流を抑制することにより咳嗽が減少し、咳感受性が低下することから本疾患における咳嗽メカニズムと咳感受性の上昇との関連が強く考えられた。また、ラットを用いて喉頭内のカプサイシン受容体(VR)の分布を免疫組織学的に検討した。喉頭粘膜内にはわずかにVRl陽性線維を認めたが、上皮内にはVRl陽性線維を認めなかった。したがって、カプサイシンで誘導される咳嗽に関係する侵害刺激受容器に関係する知覚線維はCGRPあるいはSubstance Pなど他の神経ペプチドが関係するあるいはVRの他のタイプが関係するものと考えられた。
|