研究概要 |
加齢黄斑変性における脈絡膜血管新生のメカニズムにおいて,特に網膜色素上皮細胞(RPE)が産生する強力な血管新生抑制因子である色素上皮由来因子(pigment epithelium-derived factor ; PEDF)に注目して研究を行った。ヒト培養RPEをin vitroで分化誘導すると未分化の状態に比較し,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor ; VEGF)の発現上昇とともにPEDFの発現が著明に上昇してくることがmRNAレベル,蛋白レベルで示された。つぎに分化誘導後のRPEに加齢黄斑変性を惹起する可能性のある病的刺激として酸化ストレスを負荷(hydrogen peroxide ; H_2O_2)すると,VEGFは高濃度に発現したまま変化はなかったが,PEDFのみがmRNAレベル,蛋白レベルともに発現が低下した。さらにH_2O_2負荷後のRPE培養上清を血管内皮細胞に添加して血管腔形成を調べたところ,分化RPEの培養上清は血管腔形成を著明に抑制していたがH_2O_2負荷後のRPE培養上清はH_2O_2の濃度依存性に血管新生を促進した。一方培養上清から免疫沈降法にてPEDFのみを除去すると分化RPE培養上清の有する血管新生抑制効果は消失しH_2O_2負荷後と同程度の血管新生促進を示すようになった。以上の結果は,RPEは分化状態ではVEGFとPEDFをともに高濃度に産生し,両者のバランスが保たれているため血管新生は生じないが,酸化ストレス負荷によりPEDFのみが有意に減少し両者のバランスが崩れることにより血管新生への引き金が引かれるのではないかという可能性を示唆するものである。
|