研究概要 |
網膜色素変性症は網膜で発現する種々の遺伝子異常によって発症する.根本的な治療法がまだ完成していない現状では,本症患者に対して,障害の進行速度と将来の視機能予後を正確に知らせることの意義は大きい.そこで本研究では,本症での視野障害速度を静的自動視野計を用いて定量的に評価する方法を確立し,遺伝子異常によって速度が規定できるかどうかを最終目標として研究を行った. まずこれまでに蓄積された,本症患者のハンフリー視野10-2と30-2の両者を用い,これをハンフリー視野計ファイリングシステムHfa Files Ver5(有限会社ビーラインオフィス社,東京)を用いてMDの経時的変化を検討し,進行速度を明らかにした.その結果,十分な期間視野検査による経過観察が可能であった65名126眼中,30度,10度のいずれかで有意な進行が確認できたのは68眼(54%)であった.30度視野で有意な進行が確認できた対象26眼での進行速度は0.11〜3.1dB/y(平均0.93dB/y),10度視野での進行確認は51眼で,進行速度は0.19〜2.05dB/y(平均0.64dB/y)であった. 一方,網膜色素変性症の視野進行に伴いMDがどのくらいの値になると視力が低下するかについて,レトロスペクティブに検討した.その結果,-15dBまではほぼ正常の視力を維持するが,-15dBを超えて低下すると視力低下する症例がみられるようになる.MDが-15dB以下の症例に限って検討すると,視野の不均一性の指標であるCPSDの値と視力値がよく相関し,CPSDが大きい,すなわち視野の島の高低さが大きい症例では視力が良好であった.これはそのような症例では10度視野の周辺は絶対暗点であるかわりに視野中心部が正常閾値を保っていて,視力に関係する中心窩領域の感度が正常に保たれやすいためと考えられた.
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